恐怖相手の対処方法
「……いた! エリック君いた〜。 全く心配させないで……って……えっ!? ちょっとな大丈夫なのその顔!!」
「おいおい、冗談じゃねぇぜ……」
声を荒らげられるほどに、ひどい顔をしているのだろうか。
それにしても何時間こうして居ただろう……。
よく見ればもう日がなく、星がきらめく良い時間。
それでもまだまだ浅い、明るい夜。
「誰にやられたの! 誰に脅されたの!? ほらお姉さんに言いなさい。ちょっとぶん殴って来てあげるから!!」
…………。
「……そういうとこ見ると、本当に継承権あるやつだとは思えねぇな。感情のまま動かないよう、教育されてるもんだろうに」
「それについては異議を唱えるけどね……ちょっかい出すだけなら二人に見つけたって言ってきて。すごく心配しているはずだから」
「それについては同意を唱えてやんよ。んじゃちょっといってくらぁ。この場は任せるぜ」
「……うん」
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……一人、方向転換し離れていく。
静と佇むこの二人の場。
かすかに聞こえるは、遠ざかる足音。
「…………」
時経てば静寂が支配し始めるが、覆うように小枝や葉が風で靡くその音際立つ。
その怒気抑えたのか、静かに座り込むような音。
「…………」
……さて、二人となりて何分ほど経っただろう。
夜の暗闇は一刻一刻とその深みを増していくが、先ほどとあまり変わっていないよう。
彼女と彼、静寂の時から未だ一言も交わさず。
二人は、座り込んだその場動かず。
その場を奏でるのは、やはり風の歌声。
……それが、正しかったのか。
何時の間にか歌声の隙間から、安らかな寝息が聞こえてくる。
無理に聴き出すことがなかったからだろうか。
すぐ隣に人がいるというのは、それ程に意味があるのだろうか。
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……私は、この状況を想定しなかったわけではない。
この想定を回避するために、一番簡単で、一番楽な方法で切り抜けようとした。
それでも、私のことは私で少しは理解してるつもりでいる。
心の弱さからくる失敗、悪意からくる恐怖。
成功率が決して高くないであろうということは分かっていた。
それでも、今回の失敗は結果的としての失敗ではなく、回避可能の失敗を踏んだのが事実で現実。
だからこれは後者の失敗であり、そして私はこれからも失敗を繰り返すのだろう。
だから私は、自分の身に起こる、人生で歩む道上にある失敗を想定し続ける。
これ以上、この小さな自信を無くしたくないから。
これ以上、私が沈み行き染まるのを見たくなから。
踏んで、爆発しても、その知識と経験を守りたいから。
それだけのカバーが出来る、そんな技術と力も手に入れよう。
止まるほどに歩幅を小さくしたり、道を踏み外す程に方向を間違えたくないから。
全ての損失を時間で巻き戻せるように、私は失敗の先をも想定しよう。
どれだけの失敗を重ねようとも、最後には私を成功に導きたいから――
私は未来を想像する。
私が未来を創造する。
他の誰にも、私を操作することは許さない。
さぁ、夢から覚めよう、朝日を浴びよう。
今日という一日を始めよう。
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授業終了、放課後、決闘の場。
『さーて、今日も決闘です!
成り立ての実力者には挑戦者が集まるのも当然ですが、ここまで長く予約が続くのも珍しいことでしょう!』
『としても仕方ない。エリック君の見た目然り、歳然り。
当たり前のように、二度目を申し込んでいる人もいる』
『とまぁ、話題に事欠かないエリック選手ですが、なんと今日は自身に賭けておりません!!
全くもってゼロです!
何か思うことがあるのか? 今日は挑戦者にとって運の良い日なのか!?』
『来たね、エリック君。……ちょっと顔がやつれてて、調子がよさそうには見えない』
『体調不良か? しかし、こればかりは仕方ない!
八歳が自己管理を徹底する事は難しいでしょう』
『まず八歳が今日までずっと体調崩さなかった事、それだけでも凄い事。
……やっぱりエリック君が実力者になっているのは反対』
『さて、対戦相手も位置についたようです。さぁ結界が張られ始めま…… 』
放送は、いつもの様に小さくなり、聞こえなくなる。
「今日はよろしく頼むぜ? 実力者さんよ」
私が賭けてないと知って、更にその顔が醜くにやける。
「……両者用意!」
大胆不遜に大きく、わからないほどに小さく、沈み込む顔。
……さぁ、始めよう。
ここは舞台だ。
私が主役で貴方は的。
私と彼は戦うのではなく、私がただ高みで蹂躙するだけの舞台。
その舞台、例え審判にも弄らせるつもりなし!
「始め!」
「地の意思よ その見は盾となり 現世に身を映し出せ」
作戦名、固定小範囲砲台。
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この前、後衛は砲台であると言ったのを覚えでいるだろうか。
機動力は最低、防御も紙、それを持ってしても圧倒的な空間制圧力があればいいと。
それが砲台としての役割だと。
但し、それはチーム戦、集団戦であれば、である必要があるとも言った。
個人であれば、バラマキ弾やピンポイント無反動射撃が必要だとも。
なら個人で勝利するのではなく、個人で生き延び続けるためには?
相手を全て一撃で沈めるという考え方がそれだが、かなり安定に欠けるだろう。
強者に弱く、弱者の集団に強い典型になる。
その一撃をくぐり抜けられた後の対処が難しい。
だから私は、多少空間制圧力の伸び代を削ってでも、機動と防御に力をつぎ込む必要がある、と考えた。
回避・奇襲力に富んだ移動砲台。
何者の攻撃も受け付けない鋼鉄砲台。
どちら片方だけでは、やっぱり前項の一撃砲台のような弱点が頭を覗かせる。
上記二つの複合砲台という後衛ならば、命を大事に逃げに徹する事が可能で、
大抵の強者相手でも、弱者集団相手でも、どちらでも生き延びようとする事が可能。
敵わなくても、生き延びる確率は上がる。
……実力が低い相手と分かっていて、
それでも相手に恐怖を抱いているのなら……その相手は蹂躙しろ。
力の差を思い知らせて、自分の立ち位置を安定させろ。
私の身は絶対安全で、自分は必ず生き延びると思い込め。
心に鎧を纏い、周りに盾の壁を創り、それでもまだ悪意で揺らされるようならば、
やっぱり、同じように相手を真正面から見るのをやめてしまえ。
さらに相手を知ることさえやめて、相手の情報を忘れてしまおう。
彼はもう私にとっての敵ではなく、私にとって唯の的であり、
近づくことも許されず、ただそ蹂躙されるまでの存在であると、
その身に思い知らせよう。
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短縮詠唱とはいえ、なんの抵抗なく、私の周りに石の盾が作られて。
「その光 世界に散らばるその身の力 屈折し 意味を成し 私が望む景色を映し出せ」
上に開いている穴から、神のように空から的を見下そう。
「清き澄んだ水の意思よ 球となりて敵を射よ」
私からこぼれた水は意思を持ち、相手を妨害し、その場に押しとどめれば……。
「天へ地へその身を落とす雷の意思よ その身は帝の槍 逆巻いたその鋒 雷纏いてその地へ落ちよ
黒雲の投擲!」
圧倒的な攻撃で蹂躙しよう。
そうすればほら、私の勝利だ。
……実力者の中でも比較的早く授与し、精神的にも認められ選ばれた者は、学校の治安に対して口を出す権利があるらしく。
正当な理由と証拠があれば、程度に応じて先生監視の元、私刑が許可される。
……その後、私への挑戦キャンセルが二桁単位で出たとか出てないとか。
『しりあす』は現実的な日数でも、物語の話数的にも長く続かないのが私の物語。
と、いきたかった……。
火曜日ぐらいに仕上げられるかな〜とか思ってたらこれだよ!
結局いつも通りだったよ!
とりあえず、基本物語としての一末の結末はしっかりとハッピーで終わらせます。なんせ物語なんだもの。
エリック君にしっかり理由付けもしましたしね。
谷は低く、山はできるだけ高く。
あ、私のスペックと同等で、精神や記憶等が私の理想となっているのがエリック君。
それが主人公というのもこの物語のコンセプト。
それと今回、すっごく視点がコロコロなってますね。
あんまりよろしくないのですが、私の我儘だ。
邪法も勉強ということで。
正しい思考が面白い物語を生む、とは限らないものなんですよ?(言い訳)
それでも、作者のポエム状態! が滲み出てきてちょっとな〜と思ったり。
ロマンだもん、仕方ないんだもん、砲台カッコいいよね!
まぁこのとおり、私は時折暴走を自重しません、強行します。
私の作品でありますしね。
それでも良かったらまた次話で。
後書きすっごく長いね!
追記、やっつけラテン語で『黒雲の投擲』の当て字。