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神様の好奇心は人をも殺す  作者: all
靴下を履けない本編
43/59

心と技術は比例しない

現実の都会と中世の田舎の高校生

失敗

 

 何かしらの物事相手に満足行く結果が得られないこと、不利益を被ること。


 私的だが失敗にも種類があり、成功の元となる失敗と、次なる失敗に繋がる失敗、と大別している。


 前者は、失敗する理由が分かっている上での強行、結果的での失敗。


 この場合なら物事に対しての前情報が十分あり、失敗の方向性・結果がある程度予測可能である。


 そのため、慣れや経験等でカバーが可能といえる。


 次の時、これを知識として手が打てる。


 後者は、予想していたにもかかわらず、回避に失敗すること、である。


 物事に対しての行動が、意に沿わなかった時に起こる。


 例を当てるなら、地雷が見えているにもかかわらず、それを踏む行為である。


 自身に絶望し、ミスを繰り返す。


 知識と経験を手に入れても、活かすことが出来ない。




 予想もしていなかった失敗は、回避かカバーが出来たなら前者、出来なかったなら後者である。


 但し、時間をかければ前者になりうる。


 そして、時間で取り返しがつくのなら、全ての失敗は前者だ。











「きみ、エリック君だっけ? ちょっと俺らに協力して欲しいんだけどさ〜」


「……」


 で、こんな状況もある、と。


 後ろを見れば、卑しく笑いながら私を取り囲んでいく数人のグループ。


 場所は少し人気のない上に、見つかりにくいある一つの校舎の中。


 ……いやね、いつかはこんな輩が出てくるんじゃないかな〜と思ってたんですよ?


 自分の実力を棚上げして、人海戦術とも呼べない人数の利で威圧するお馬鹿グループなんて。


 あの状況、あの兄妹に比べれば、本当に想像しやすい。


 自分より歳下で、自分より実力がある気に入らない奴。


 ならば脅しつけて、それを踏み台にしようとする愚者。


 そんな器が狭い人達が居ないわけがなくて。

 そんな器が狭い人達はどこにでもいて湧いて居る。


 そんなお約束(テンプレート)を妄想しないわけがなく。




 ……それでも目の前にすると、身体は動かなくなった。


 やるべきことは何度も想像したのに……身体が言うことを聞かない。


 頭の回転が遅くなり、白く霞がかかる。


 ……そして、その時を逃す。




 そこにあるのが見えない悪意だからこそ……心が畏怖してしまう。




「あらら、怖気づいちゃってるわ」


「いけんじゃね〜? 所詮やっぱり子供だって」


「フヒヒ、これでワテたちも実力者ですなぁ」


「所詮子供、脅しつければそれで十分なものです」


 ……好き勝手言ってくれる。


 魔法詠唱済みの状態、後はもうほんのちょいと引き金(トリガー)を引くだけで魔法が発動する似非詠唱破棄。


 見た目的にも暴力的な魔法待機状態と呼ばれる技術を使いながら、取り囲み、脅しておいて……本当によく……。


っ……。


 基本、学校の校舎内なら攻撃魔法が禁じられている。


 禁じられている、といっても発動できないわけじゃない。


 ただ、魔力感知系の魔法陣が校舎内に書かれていて、発動禁止区域で魔法を発動したらほぼ確実に先生達が飛んでくる。


 ある程度の個人特定もできてしまうらしい。


 ……でも、それは()()したらのお話。


「で、頼みたいことっていうのが〜」


「……決闘で、負けろと」


 声さえも震えてしまう。


「そう! よくわかってんじゃん。よろしく頼むわ〜エリック君。次の日、俺だから」


「フフ、わかっているとは思いますが、誰にも言わないのが得策ですよ? それでは」


 ……いくら人気が少なくてもここは学校、人が多く集まっている場所。


 長居が得策でないことぐらいは、経験で理解しているのだろう。


 彼らの魂胆は分かる。


 本当に私が八百長をすれば儲けもの。


 それでなくても脅しつけておけば、恐れで十分に動きが悪くなる。


 そういう意味で彼らの術中に嵌っている。




 身体は汗を流し、震え続けている。




 ……妄想は失敗した。


 私は……この状況を想定しなかったわけじゃない。


 自分のことは少しぐらいなら知っている。


 ただ、完全に包囲される前に、目の前の相手に短縮詠唱での不意打ち。


 少しでも注意を引ければそこが隙、それだけで人目につく場所に逃げるには、あの状態でも、子供の足でも、十分なはずだった。


 さらに魔力感知系の魔法陣、正確には魔法を発動した時に、空気中に残る残量魔力を拾う魔法陣。


 それは銃の弾丸発射時に残る硝煙反応を見るのと同じようなもので、私はそれを逆手に取るつもりだった。


 つまり、効率を徹底化させた小規模魔法で、残量魔力を極力残さないように魔法を発動すれば、気付かれない可能性が高い。


 たとえ気づかれても小規模なのだからお咎めは無し、あるいは注意程度ですむと考えた。


「ふぅ〜っ……」


 上を向き、ため息をする。


 仮想世界で積み上げてきた物が、実は現実では紙くず。


 こんなことはままあった。


 目の前に物質的な恐怖があるなら、状況を判断し、規則(ルール)を理解し、攻撃を逸らし、乗り越えれば良い。


 けど、恐怖の出処が分からない、心に纏わり付くような恐怖には乗り越えるようなモノがない。


 乗り越えるのではなく、跳ね返すことが必要で、それには心自体が強くあり続けなければならない。


 心の気圧を高め続け、光放ち続ける必要がある。


 それが私が理想に成れない理由。

 私が理想を追いかけ続ける理由。


 だからこそ、私は技術と力を求めた。


 心が弱いなら、身体に恵まれないなら、頭で技術(もうそう)という力を高め続ければ良い。


 身体を技術で武装し、更にこの世界で魔法にも手を出し、(こころ)の水に安定(よゆう)を求めた。


 身体が技術を育て、技術が心を育む。


 それでも、私は(うつわ)(ちいさ)かった。


 恐怖は鎧の隙間から縫いこむように抉り込み、器の水が波立って……結果、雫が落ちる。











 だから私は、時間を求めた。

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