勝てる賭けには乗りましょう
「で? なんでユアン先生をあんなふうにしたの? いや、出来たの?」
こちらエリック、こちらエリック、只今キャロラインさんに尋問されている。
「先生相手にほぼ無傷で完封状態。先生が設定されていたとしてもそうそう出来る事じゃない」
「あの先生と一対一だしな」
「全く……無茶しすぎです〜」
訂正、キャロラインチーム全員に尋問されてます……。
最低限ミスリルバットでフルスイング気絶させたこと、もうそれだけは隠したい!
その結果、穴を開けた先生は落っこちてきた私を受け止めようとしてダメージを受ける。
そのまま一対一で対峙するも制限とダメージが足を引っ張り、拘束されて棺桶に埋められる、という妄想が出来上がった。
……脚色しすぎたかな。
先生の名が出た一瞬で生徒全員が顔が青ざめるほどなのに、とんだ凡ミスをする先生である。
「そりゃ先生っぽくないな」
事実じゃないですからね。
「でも、その分じゃ大丈夫そうだね」
……ん?
「一対一でユアン先生と対峙出来たのですし〜、大丈夫だと思いますよ〜」
……。
「うん、これから忙しくなるだろうけど『実力者』として頑張ってね、エリック君」
……。
……なんのフラグなの? 何のドッキリなの!?
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学校での日常は平凡である。
日が山々から顔を見せ高く登っていく時は、通常授業として主に魔法や戦術を学び、日が一番高い所から段々と低く沈んでいく時は、前衛は体力づくりや模擬戦で外に、後衛は室内で魔法を学ぶか詠唱訓練を行う。
放課後の線引きは曖昧で、その日によってかなり時間が違う。
意識の高い学生は、放課後になって自主的な訓練をするし、先生に監視されながら魔法の修練をする。
または図書館に行き、新たな魔法や使い方を学んだりする。
今日は疲れたからと言い、だらだら自由に過ごしても良い。
私は後衛授業を選び、授業的で基礎的な訓練をして、放課後になったら私が掲げた課題である短縮魔法のコントロールと威力低下の低減訓練を行っている。
……はずだった。
「エリック・シルフィールド! 今日こそ私と決闘しなさい!」
「いや、私が予約していた。次は私だ!」
「おいおい、ちょっとまて、今日は俺に回せ!」
訓練時間早々に、次々勝負を挑まれる日々。
相手は三年生が主だって多い。
キャロラインさんたちは遠目に見るばかり。
ある生徒は今日も賭けが開けると走り回る。
学校での日常は平凡である。
……ただ毎日、ちょっとした決闘をするだけで。
あ、胴元さん。自分が勝つ方に千リールよろしくね〜。
……。
なんでこんなことになったんだろうか。
いや原因は分かってる。
こんな日常なったのも、またユアン先生のせいである。
私が入学当初に聞き逃していた先生の伝言を覚えているだろうか。
その内容はこんなのだったらしい。
「エリック・シルフィールドを『実力者』とする。勿論、規定通り決闘で実力者を倒したらその称号は倒したものにも与えられる。挑める資格がある者も規定通りいつもの通りだ。コレは決定事項であり、次のサバイバルが終わった3日後から制定する」
情報提供者、クラリィさん。
実力者、とは学校を卒業できると判断されたものに与えられる称号。
つまり、この称号がないとこの学校から卒業出来ないのである。
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「その『実力者』という称号は決闘で実力者を倒すか、ユアン先生などの一部の先生に決闘を挑んで認められたら、手に入れることが出来るんだよ」
私はやっとつい最近に手に入れたんだけどね、とキャロラインさん。
「二年生になったら定期的に行われる知識試験と実力試験がある。その両方を高成績で通ったら決闘を受け入れてもらえる、というわけだ。勿論三年生にもある」
「ただ三年生に進級するだけなら、もう二段階評価が低くても問題ないんだっけか?」
「そうですね〜。そしてこの仲で一番最初に称号を手に入れたのはクランさんなんですよ〜」
……意外だ。
「おいこらそこ、意外だみたいな顔するな」
「いえ、本当に意外だったもので」
思わず顔に出るほどに。
「だよねー、そう思うよね〜」
キャロラインさん達との差はなんだろう……前衛と後衛の差かな。
「キャロよぉ……というかそりゃしょうがねぇだろ、強いて言えば前衛と後衛の差だ。一対一の決闘なんだから」
おぉ、当たってた、口に出さなくて正解。
私の考えとして後衛は、砲台としてどれだけの制圧力があるか、でその価値が決まる。
装甲は紙でいい、機動力も最低限あればいい、ただどれだけ相手の戦力を削ぎ落とすかが問題なのだから。
相手の攻撃が届かない圧倒的な射程力、全てをなぎ払う攻撃力、それが合わさってこその空間制圧力が一番モノをいう。
ただしそれは『チーム戦』『集団戦』であれば、である。
「一対一だから相手が近接戦闘型であれば詠唱が間に合わない。短縮魔法で牽制を入れながら本命を当てていく必要があるんだよ」
「遠距離じゃなくて短中距離の戦闘を余儀なくされるからねぇ、近づかれたら防御展開しても維持は辛いしいつかは破られる。辛かったな……」
「威力が低くても、詠唱破棄があるなら楽になりますけどね〜」
例えるなら無反動のピンポイント射撃か、牽制用広範囲バラマキ弾が必要という事なのだろう。
同じ後衛型の先生が居たとしても、短縮詠唱は使ってくるだろうし。
ここはレベルの高い高等部で騎士育成学校みたいなものなのだから、最終的に個人の実力で左右されるのはある意味当たり前かもしれない。
ストレートの卒業者が少ないのはそのためなのだろう。
で、私が狙われる理由としては。
「そりゃ先生達に比べたら弱いからでしょ」
「先生達を認めさせるより、エリック君を倒したほうが簡単だと私でも思うよ?」
ということである。
私の平穏生活なんてなかったんだ……。
前半蛇足かなぁ……と思ったり思わなかったり。
とりあえず、中盤が未来、前半と後半は時間軸が同じです。
書きたいように書いてみたというのが正しいのですが、これってどうなのだろう……。
予想する未来ではなく、確固たる未来を間に挟んでしまうのはまぁ褒められたことでは無いでしょうね。
いいじゃない書きたかったんだからさ!
お金のことは次話ぐらいから出てくる……予定であります。
この話ではお金の単位が『リール』であり、千リールは高校生が掛けても許されるぐらいのお値段であるとわかっていただければ。
それではまた次話で。
自分で自分に賭ける、それがまだ許された時代。