恐怖に対する鬱憤はどこに?
やっと出来た。
現実逃避
現実で何か行動しなければいけない物事・状況から、意図的に意識を逸らすための行動、または逸らそうとする心理状態。
未来への不安や、解決困難な状況から逃げようとする心の機能。
ただ単に、今起きていることをから目を背け、空想に佇むのも逃避であると私は思う。
これが重度になると、他社への攻撃、自傷行動が見られることがある。
大きく分類するなら、不必要行動逃避、空想への逃避、自傷行動への逃避くらいだろうか。
私の場合、現状より悪い状況を空想・想定し、そうなっていないことで現状に満足する事が多い。
これは重度の現実逃避の一つではないか、と私は考えている。
「おっとぉ!?」
嫌な浮遊感から一転、抱きとめられる感覚がした。
目を開けると、そこにはズームアップされたユアンさんの顔。
よほど驚いているのか、私と同じようにユアン先生もフリーズしている。
状況を鑑みるに……背中の痛みから助けてくれた方法が、俗にいうお姫様抱っこであった、ということだろうか。
見た目は男の子、心は女性という世にも不思議な人生だからか、感謝の気持ちが湧いてこない。
状況だけ見れば腐女子達が騒ぎそうで。
その本質は、女の子にとってちょっとだけロマンティック。
私だって夢見る乙女のように、このシチュエーションに憧れていた事もあったのに……。
だけど、今回の相手は見た目四十代後半の、なんの特徴もないおっさん。
さらに、前世の一生の中ではこんな事は起こらず、今世で男に生まれたのが原因なのか……喜ぶ気持ちも全く湧いてこない。
うん、私は男として生まれたのだから、受け止める側としてこのシチュエーションに期待するとしよう。
……現実逃避終了。
助けてくれたのだから、感謝はあってしかるべきなんだけど、本能が完全拒否してしまっている。
さてこの状況、どうやって打破しよう。
先生は、私が落ちてくることは予想外過ぎたのか、まだ固まっている。
いや、誰もこんなことを予想できるとは思えないけども。
先生がここにいる、ということは奇襲のため。
ブーニング先生と戦っている最中に、気付かれないように拠点制圧するため。
理由はわかるけど、腑に落ちないこともある。
戦力的にブーニング先生だけで手一杯の状況、こんな面倒なことしなくても、側面から中遠距離攻撃してしまえば、こっちとしては拠点放棄して撤退するしかない。
きっとキャロラインさんだって、撤退という選択を迷わず行うはず。
だけど、それを選ばなかった理由なんて、今考える必要はない。
今やるべきことは……。
「清き澄んだ水の意思よ」
「へ?」
目の前の敵を倒すことだけっ!
「面前の敵を撃てっ!」
超至近距離からの、水の砲弾。
狙うは顔。
角度が下からなので、鼻という呼吸器官に入っていくおまけ付き。
「んぶっ!?」
まぁそんな事が起こったら、私は空中に放り出されるのは当たり前。
それでも、しっかりと足から着地して、エネルギーを散らす。
「痛!」
……痛いのは仕方なし。
痛いのも、反動で尻もちついたことも、気にしていられない。
今、ユアンさんは咳き込んで、水で目を潰されている状態だから。
追撃する絶好のチャンス!
魔力を流し、ミスリルを変形させて、一部分だけ切り取とる。
金属バットをイメージしながら魔力を流して――
一瞬にして見た目重厚の、子供でも振り回せる金属バットの出来上がり。
後はこれを見られる前に、バットをお腹に叩きこむッ!
……。
軽い恐慌状態に陥っていたんだと思う。
まるで、新兵が銃剣先で殺し、もう死している相手を何度も何度も刺突するように。
バットで人を殴るって発想が出てくるってどういうこと!?
しかもその発想に疑問を持たず、すぐさま実行。
結果、重さはそれほどでもなかったのに、ミスリルが硬すぎたのか、ユアン先生は気絶。
横に回転し、後ろにうつ伏せに倒れた後のユアン先生の顔は、いろいろと残念なコトになっていた。
いろんな液体と土が混ざり合って……いや、ユアン先生の名誉のために濁しておこう。
ふぅ、少し落ち着こう。
この分じゃ、殴ったところは内臓までダメージが入っているかもしれない。
治癒魔法を掛けるのはいいんだけど、襲撃者の動きを封じるのが先にだろうか。
……ふむ。
「気高き強固な地の意思よ その身を現世に映し出せ」
小さなU字型の石を作り出す。
うつ伏せになっているユアンさんの両手両足にしっかり嵌めて、抜けないようにしっかりと固定する。
……視覚も潰しておこうかな。
「気高き強固な地の意思よ その身は盾に相応しい形となり その身を現世に映し出せ」
太さ二センチほどの背の低い石壁を、ユアン先生を囲むように突出させる。
もう一枚作って蓋をしたら……ん?
可能性は低いけど、ユアン先生が光魔法を使える可能性が残る。
いや、仮にもこの学園の先生だし、石壁ぐらい魔法で簡単に壊せるに違いない。
……うん、詠唱できないように口も塞いでおこう。
ユアン先生が着ているローブみたいなものを引き千切って、猿轡みたいにしておく。
後は、空中から石壁を作り出して蓋をすれば。
……よし完了。
見た目棺桶で、いろいろとやりすぎな感じがしないでもないけど、これでも目標を預っている身だし、用心に越したことはない。
だけど本音は、
「暫くそこで、私が感じた恐怖を少しでも体験してくださいね?」
だったりする。
身体が動かせない不自由感と、見えないという不安感は、ユアン先生に十分に恐怖をもたらしてくれるだろう。
ブーニング先生の歩兵の進撃。
あれさえ体験しなければ、棺桶は作らなかったかもしれない。
だから、あれを体験する原因となったユアンさんが来てくれたのは、私にとって僥倖だったのかもしれない。
訓練という名目で、気兼ねなくやれたしね。
もしユアン先生が無詠唱を使えて、口封じの布を切ることが出来るなら脱出されるだろうけど、まぁそれは仕方ない。
こう考えると、無詠唱って結構価値高いなぁ。
……あ、先生に治癒魔法掛けるの忘れてた。
なんとか書けました。
今回も小説の書き方がわからなくなる病に、かかってしまいました。
対処方法は、自分が書いた小説を読みなおすことぐらいで、四苦八苦しております。
コンセプトは魔法使いは不意打ちに弱い。
それを体現させようとした話だったんですが……上手くできているのやら。
それではまた次話で。
棺桶を作り出すときの、第二小節目の詠唱が気に入らなかったりします。
センスある人、中二病な貴方、黒歴史を持つそこの御仁、閃いたなら感想でご一報をよろしくです。
2012/04/20
したたかに修正。
少しは読みやすくなったかも?