チームリーダーは感覚型
魔術語
魔法の詠唱に使われる用語は、この国の公用語ではなく、魔術語と呼ばれる特別な用語が用いられている。
魔術語は、一つ一つの単語に意味と『力』があるとされ、単語をつなげて文として意味が通れば、それが小節となり詠唱となって魔法が発動する。
小節数と魔力の消費の一番効率のよい詠唱が、基本詠唱として名付けられており、それは国立魔法研究機関が主だって決めている。
したがって、学校で教えられている魔法は、一番効率の良い文で作られた詠唱で教えられている。
魔術語はまだ謎な部分が多く、それらを解明していくことで、魔法がより使いやすくなると考えられている。
「ごめんね〜。指示出すのすっかり忘れてたよ」
あなたが私に目標渡した事、忘れていないですよね?
「ふむ、水属性にはそういう魔法があり、そういう使い方があるのか。勉強になる」
私の場合、魔法攻撃に関してはこういう使い方が殆どですよ〜。
これは何度も試作し、何度も作り出したお気に入り作品の一つですしね。
逆に雨を降らす魔法が無いことに、驚いた記憶がある。
「治癒魔法助かったぜ!」
ええ、よかったです。
私の主力になりそうな魔法ですからね。
自分に掛けるのではなく、他人に掛ける時の練習相手として、クランさんを使わせていただきますとも。
まだ一回しかやっていないしね。
「ありがとうございます」
セリフの最後に音符がついても良いぐらい、上機嫌なアリシアさん。
なんのお礼かは大体わかりますとも。
勿論、失格になりそうなら光魔法でも闇魔法でも使っていきますよ。
そうならないよう精一杯、足掻きますけどね?
「と、いうことで俺は寝る。エリック君が体力回復させてくれたけど、流石に眠い」
「うん、お疲れ様」
その言葉通り、クランさんはすごく眠たそうに拠点の中に入っていった。
「流石に今日はもう襲撃はないと信じたいね」
「ですね〜」
ということで、一段落したし……。
「クラリィさん」
「ん?」
「クラリィさんの秘策、ほぼ詠唱破棄に近い短縮詠唱で、拠点を丸ごと硬質化した魔法について聞きたいのですが」
早速教えてもらいましょうか。
―――――――――――――――――――――
「なーるほど、気づいちゃったわけね?」
彼は、本当に八歳なのだろうか?
そんな疑問が私の中を巡る。
「普通に気づかれるとは思わなかったよ。かなり緊迫していた状況だったしね」
飛び級なりに、詠唱破棄や短縮詠唱をただ知っていただけじゃない。
地属性魔法が、主に防御に使われている事を覚えていただけじゃない。
八歳が、あの緊張が走る状況で屋根が壊れないという現象を見て疑問を持ち、尚且つそれをクラリィが詠唱していたとはいえ、誰がやったか気づく、その事に。
更に、この魔法のどこが凄いのかしっかり理解している。
……私は彼が、八歳だとはとても思えない。
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気づいたことにちょっと驚かれたけれど、飛び級という経歴があるからか、そこまで追求されなかった。
とはいえ私自身、ビビリ過ぎな気がする。
どう考えても転生のことは自分から話さない限り、分かる訳もない。
ある程度気をつけていたら、よく気がつく子供程度で終わりそうな気もする。
……うん、まぁそんなことは今は結構どうでもいい。
「つまり、一度硬質化を物質に掛けておいて、その後もう一度掛けようとする場合、魔法が掛かりやすい、ということでいいですか?」
「うん、大体合ってるよ」
つまりはこうだ。
今回、拠点の主な材料となる木、全てに簡単な硬質化魔法を掛けておき、拠点を組み立てる。
だけど、硬質化魔法は永続じゃなくて、硬くしている間は魔力を消費し続ける。
流石にずっとは無理なので、防御力が必要になった時、短い詠唱でも硬くするという方向性さえあえば、魔力を注ぐことでそれなりの硬質化を行うことが出来る。
つまりは、硬質化を二重に掛けていた、ということ。
これが、クラリィさんの秘策。
余談だけど、屋根や角の組み合わせの部分には、地属性魔法の刻印を刻みこみ、永続的に硬質化とかみ合わせを固く結ぶこともさせていたらしい。
これが結構魔力を喰うらしく、拠点をこのスタイルにする時、クラリィさん的に最も苦労した部分なのだとか。
勿論、クラリィさんの秘策の時も、他のところに比べて組み合わせ部分は元々硬くしてあるので、更に硬く硬質化されているのだとか。
だから、組み合わせがずれる、ということもないらしい。
この事は、しっかりと纏めておこう。
「……うん、決めた!」
何かを決めたらしいキャロラインさん。
朝の襲撃後、質問タイムの後はクラリィさん達が望んだ通り平和で、私にとって五日目も終わりになるくらいの時間。
何か吹っ切れたかのように、私のところに向かって来る。
若干清々しい雰囲気なのは、気のせいじゃないと思う。
「もう一度確認するけどエリック君は、四原則魔法と治癒魔法が扱えるんだよね」
隣にはクラリィさんもいる。
こちらはキャロラインさんとは別方向の雰囲気を纏っている。
残り二人は見張り番だろうか。
「はい、そうです」
「やっぱりエリック君は、これからも私の指示なしで勝手に動いちゃって?」
「……はい!?」
何を言ってくれてやがりますかこの人は!
キャロラインさんが、リーダーの仕事を全部私に押し付けましたよ。
「その方がエリック君が動きやすいから、だとさ。あの水属性魔法のような効果をまた期待しているんだよ」
と、キャロラインさんの発言のフォローをしながらも、呆れ気味のクラリィさん。
それでも多少慣れているのか、もう諦めているのか、乾いた微笑を浮かべている。
「キャロラインさん、これはリーダーが目標を守らないと言っているのと同じですよね?」
「うん……そうだね。だけどエリック君が、それだけこの事を理解してくれているんだし、問題ないよ」
「更に、私の魔法に気づいていた。そういう魔法に関しての能力、結構信頼しているんだよ。大丈夫だ、問題ない」
傍から見ても、当事者から見ても、問題大ありだと思いますけどねぇ。
声に出したくても、私は私で納得してしまったのだから仕方ない。
これで、気兼ねなく魔法を練習する場が出来たことに。
「だけどやっぱり、危なくなったら……」
実践訓練風味で、いろんな攻撃魔法の……ね。
「援護、してくださいね?」
「「任せて(なさい)」」
夜はゆっくり深くなっていく。
後一日だけだけど、実践で、私が考えた魔法がどれだけ使えるのか楽しみだ。
目標をリーダーに返して、純粋なチームメンバー状態になったら、もっと動きやすいんじゃないかな〜と思ったりもしたけど、キャロラインさんが承諾するわけも無いので黙っておこう。
エリック〜、お前は今八歳だぞ〜っと。
駄々こねていいんだぞっと。
実践で、自分の魔法を使うだけなら、チームメンバーであったほうが都合がいいですからね。
さらに、魔法の成果を期待するなら尚更。
だけど、そこはキャロラインさんですから仕方ないね。
彼女は結構頑固なんですよ?(というキャラ設定のつもり……)
でも、彼女の決断は最年長にリーダーの責任を託したのですから、あながち間違っていない選択かもしれないですね。
それでは、また一週間以内の次話で。