常識と偏見と異常と
常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションである
これは、アインシュタインが残した言葉だとされている。
そして私は、人が育ってきた環境によってその人の常識が変わる、という意味で解釈している。
例をだすなら、共通語やお金に関する事がそれに含まれるだろうか。
日本という国で暮らしているから日本語を次第に覚えていくし、『円』というお金の単位で売買する事を覚えていく。
常識として。
追記
異常とは、自らに身につけた常識の範囲外のことである。
アースに魔法がなくてよかった、と本気で思った。
拠点木造建築物、空き地、さっき魔法戦闘やったという条件からか、三日目にはもう一回襲撃が、四日目も一回襲撃があった。
どちらも後方型の先生らが襲撃してきており、クランさんが弾幕をすり抜けて接近戦闘を仕掛けたら撤退していったため、こちらには人的被害も物的被害も無い。
環境にも一応気を使っているのか、先生達は火事になる火属性は使っていない。
クランさんに近づかれないよう木を倒してそれを牽制攻撃に使う、などの森林破壊的なことはやっているけれど。
森林破壊問題についても、毎回サバイバルで木を切り倒し、木造建築物を作り、あまつさえ戦闘で牽制攻撃として使うほどなので問題ないのだろうと推測した。
つまり、『異世界らしくファンタジーらしく木の成長がアースに比べて格段に早い』と結論づけた。
この目で時間をかけて比較したわけではないけれども、多分間違っていないはずである。
ただ、そういう怪我や環境としての被害は無いけれど、精神の方を乱された人ならいる。
クランさんである。
近接戦闘を仕掛けたら撤退、の三回連続。
野球でいうなれば、四番バッターの三回連続フォアボールと同じ欲求不満状態に似ているのだろう。
敬遠は四番の宿命。
いわゆるストレスが溜まっている、という状況だから深刻に考えすぎない方がいいかもしれない。
そして……私も平穏状態とはお世辞だったら言えるのではないか? といった状態である。
目標を持っているという重圧が上乗せされた、先生達の襲撃に対する警戒、恐怖。
つまり、キャロラインさんが原因である。
さらに、木を切り倒しての自由落下攻撃を牽制と言えるほどの酷く攻撃力の高い戦闘。
一歩間違えれば斬撃で簡単に腕を落とされ、魔法により死に至るかもしれないほどの戦闘。
この世界に身体的にほぼ万能な治癒魔法があるからこそ、このようなアースではありえない危険な戦闘が、僅か十代の一生徒に対しての授業として成り立っているのだろうか。
そのことを無駄に意識して、無駄に疲弊しているかもしれない。
というか、意識しないなんて普通に無理です。
まぁ少しだけ眠りにくくなったりしたけども、被害らしい被害は表面上それだけだったりする。
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今日はサバイバル五日目。
拠点の入り口から太陽の光が入ってきて朝靄で煌めいているように見えるちょっと幻想的な朝。
寝ぼけ眼をこすりながらゆっくりと立ち上がり、朝日を浴びようと歩き出す。
目を閉じ深呼吸するたびに少し冷たい空気が体に入り込み、ゆっくりと目が覚めていく。
朝の一杯、水を飲んだらもう完全に目が覚めるだろう。
そう思いながら入り口から出て一番最初に見えたものが、その幻想的な朝に似つかわしくない円形に抉れた黒い地面だ。
……クレーターである。
うん、水を口に含んでなくて本当によかった。
直径五メートルぐらいのもので、規模が大きいように思える。
というか、実物のクレーターなんて初めて見たし、規模がどうとかなんて全くわからない。
「お〜早起きだなエリック君。おはよう」
うん、間違いない。この人が原因でこのクレーターが作られたに違いない。
「おはようございます。見張り番ご苦労様です。早速ですけど、この穴はなんですか?」
「ああ、いつもの通り襲撃があってな? その時に先生がぶちあけていったものさ」
……うん、やっぱりこの人のせいだ。
でも、襲撃があったなんて全く気づかなかった。
ということは、
「自分、ずっと寝てましたよね?」
「ああ、あれだけ大きな音出して長いこと戦闘やってたのに起きてこないもんだからさ、ちょっとばかり驚いたぜ?」
五メートルのクレーターを作るような戦闘ですもんねぇ。
ひどく大きな爆発音がしたに違いない。
目を覚まさない方がおかしい。
よく見れば他にも小さなクレーターが何個かある。
クランさんの言うとおり、結構大規模な爆発音が『何度も』あったのだろう。
それを聞いても起きない私。
眠りにくくなって睡眠が浅くなっていると感じていたけど、もはやその逆。
私は自分で思ったよりも豪胆なのかもしれない……。
そのクレーターが出来るほどの襲撃が夜中にあったせいか、少し遅く起きてきた女性陣三人組。
「見張り時間もうすぎてるんだが〜?」などと愚痴をこぼしながら、仮眠を取るために拠点に入っていくクランさん。
無理やり起こすことをせず、自然に起きるまで待っていたその行動からして、怒る気などは全くないのだろう。
多分、今回もストレスが貯まるような襲撃だったに違いない。けども、女性陣に対してこの対応。
見かけによらず結構紳士な人である。
いや、騎士になるのだろうから、紳士な対応も必要であるとは思うのだけども。
「おはようエリック君、朝早いね〜」
「いえ、私は寝ていましたから」
五メートルのクレーターが出来るほどの爆発音で起きないぐらいに深く、ぐっすりと……ね。
「あー……うん、あんまり気にしなくていいよ?」
「まぁ仕方ない。何度も言うけどサバイバルなんて体力的に辛いはずだ。しっかりと睡眠を取ってくれる分には注意する理由も何もないよ」
「ですけど凄いですよね〜。普通ならやっぱり驚いて起きちゃうと思います」
ええ、勿論私が一番驚いていますとも。
その音に驚いて起きなかった私自身にね。
まぁクラリィさんの言うとおり、体力的に難があるのだからこの際きっぱり考えないようにしようと思う。
第二の人生、今は飛び級してる八歳の子供。
子供は子供らしく、振る舞うとしましょうか。
で、やっぱり襲撃なんてものはいつ起こるかわからないものでして……。
「クラリィィィィ!!」
拠点から咆哮、いやそう思わせるような大声。
私以外の三人が、即座に戦闘態勢に入る。
それと同時か、擦れるような枝葉音、地面を滑る薄く大きな影。
「上だ!」
誰かが叫ぶ。
まだ明け方、薄暗く見えにくくても、地面を滑るそれは確かに人影。
重力により、落ちてくるのは確かに剣という『武器』を持った人間。
「地の意思よ!」
判断したのか、呼ばれていたから反応できたのか。
--高度目測、十から十二メートル。
「応えて!」
クラリィさんが短縮で詠唱を始める。
もはや詠唱破棄に近い短縮詠唱。
--装備と体重合わして八十キロと仮定、低く短く見積もって約一秒半で地面に着地。時速は空気抵抗を含めて約五十キロ。
そして……
「ロックシールド!」
着地!
その場所は拠点の屋根。
低く見積もって二メートル、つまり自由落下距離は約八から十メートル。
そして、その屋根に人がいる。
つまりそれは、屋根が壊れていないということ。
運動エネルギーは約八千ジュール。
そんな数字じゃなくても、時速五十キロで重量八十キロの物体がぶつかるという事象で、この現象の異常さが垣間見える。
しかも、ただ落下しているだけじゃなく、拠点に攻撃しようとして、である。
普通に考えて落ちてきた人間も、材料が木である建築物も、無事では済まない。
だけど、当たり前のようにそこにいる襲撃者。
それら全ての現象を正当化させてしまう、魔法というアースにはない不思議な力。
……そしてその現象に隠れているけど、防御を自分達にかけず、拠点にかけたクラリィさんの判断も、結構凄いような気がする。
だけど、明らかに短縮詠唱が短すぎる。
殆ど意味のない効果しか無いはずなのに、屋根が壊れていない。
多分、これこそが秘策だと思うけど……。
「先生は!?」
「屋根だよクラン。ありがとう、助かった」
「お礼とかは後で! クラン行ける?」
「おお、やっと近接戦闘が出来るんだ。寝ていられるか」
うん、そうですね。
今、そんなこと考えてる余裕は無さそうだ。
「さぁて、挨拶も済んだ。チーム全員が実力者、そんなチームが相手の襲撃を始めるとしようか!」
そんな言葉を発した人物は、高等部の教室で私の入学に対してのブーイングを一手に引き受けていたあの先生だった。
クランさんをちょっとだけ紳士的に書いた部分どうでしょう。
個人的に欲しかった場面であったりするのですが、どうにもうまく書けなかったものでして。
意見があったらバンバン言ってやってください。
刑事モノで言うなら、どんな小さな事でもいいので話してください、ということになりますね。
右京さん風にいうなら、細かいところまで気になってしまうのが僕の悪い癖、という奴ですね。
……すこしニュアンスというか使いどころが間違っていますが。
文字数は六千とか言ってたのに四千ちょっとしかなかったりします。すいません。
後、戦闘の入り方どうですか?
妄想はまた書きなおすかもです。
もしかしたら、微妙に変えるかもしれません。
それではまた次話で。