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 シューバック家とは、昔からそれなりに名の知れた家柄であったようだが、その名を広く世間に知らしめることになったのは、私の曾祖父の代からである。私の曾祖父の名はレブザ・シューバックといい、初代ハディナーン、バロイルの片腕と呼ばれた。






 元々遊牧民であった者たちが、ある時から他の民族に溶け込むようにして定住するようになり、やがて自分たちだけの国の成立を目指すようになった。しかしながら幾度も失敗を繰り返し、時には自民族の絶滅の危機にまで晒されることとなった。そこにバロイルという一人の男が現れ、彼の下で自民族の結束が固められ、幾つもの戦いを経て見事、自民族による国の成立という長年の悲願を達成した。


繰り返される戦争の中で悉く勝利を引き寄せるバロイルを、人々はいつしか彼らが昔から守護神として崇めるハダラの加護を受けし者、ハディナーンと呼ぶようになり、国の成立後、彼は初代国王として君臨した。


これがこの国の成立に至るまでの歴史の概要であり、私の曾祖父はそんな、今もなお当時から変わることなく国の英雄として崇められる男の片腕として、人々の間に名を残している。曰く、国の成立後はその聡明さと鋭い洞察力をもって国王たるバロイルを支えたとされるが、私が幼い頃に祖父から聞いた話はそれと大分異なっている。




 祖父によれば、実のところレブザ・シューバックは決して弱いというわけではないが、そこまで強い軍人ではなかったそうだ。つまり極々普通の、あるいは普通より少し強いといった程度の腕前の軍人であった、と。よくよく考えてみれば、それも納得のいく話だ。何せ彼は本来、軍人とは程遠い上流階級の家柄に生まれた、シューバック家の二男坊である。軍人になった理由も、両親を始めとして周囲からいつも出来の良い長男と比べられ、「お前はあまりに文学の才がない」と貶される声から逃れたいがためであった。


それでは何故、そんな極々普通の軍人であった彼がバロイルの片腕と呼ばれるまでに至ったのか。そもそも両者はどのようにして出会ったのか。幼い私の問いかけに、祖父は笑って言った。


「私も同じことを父に尋ねたのだが、こればっかりはどうしても教えてくれなくてな。そうしたら傍で話を聞いていた母が、『どうせ、この底なしのお人好しのことだから、また余計な世話でも焼いて目を付けられたんでしょうよ』と言って、それきり父は何も言わなくなってしまった」


きっと図星であったのだろうな、と当時のことを思い出したのか、祖父はそれから暫く笑い続けた。




 それまでの話を聞く限りでは、仲睦まじい夫婦のように感じていた曾祖父と曾祖母の間にも、実際には夫婦になるまでに色々とあったようで、そもそも曾祖母はバロイルによって攻め滅ぼされた、とある少数民族の唯一の生き残りであった。


仲間を喪った曾祖母はその悲しみと激しい憎悪から、やがて仲間を奪った者への復讐を決意するものの、身も心も疲れ果てた小娘一人にはただ生き伸びるだけでも精一杯であった。それでも最終的にはなんと、敵の大将たるバロイルのすぐ近くにまで迫ったというから、たかが小娘一人といえども侮れない。しかしながら、さすがの曾祖母もあのバロイルに対して殺すどころか傷の一つすらつけることができず、半狂乱でただひたすらにバロイルへの呪いの言葉を叫んでいた彼女を取り抑えたのが、何を隠そう曾祖父であった。


そこから一体どのようにして結婚するまでに至ったのか、その詳細は祖父にも分からないとのことだったが、曾祖母曰く「今時ガキにも見られないくらい、まっすぐな心で必死に迫って来るもんだから、何だか生まれたての赤ん坊を無下に扱っているような罪悪感に苛まれて、耐えきれなくなった」とのことだ。




 そんな過去を持つ曾祖母であるが、彼女はある特殊な能力を一つ持っていた。それは真実を見抜く目である。具体的に相手の過去や未来が見えるわけではなく、ただ目の前にいる相手の真実を見抜くのだ。この能力は血縁を通じて祖父や父、そして私にまで受け継がれている。


父が言うには、私はとりわけ曾祖母の血を強く引いているそうで、そのせいで私は幼い頃から家督を継ぐべくして父に散々扱かれる羽目になった。今でこそ理解できるものの、幼い頃はそんな父の思惑を知るわけもなく、日頃から私にはひたすら厳しく接し、あれこれと習わせるのに対し、妹にはひたすら甘い顔ばかりする父を、よく恨めしく思ったものだった。






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