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放課後を浪費する部活へようこそ! ←呼んでねーよ

作者: 善玉令嬢
掲載日:2026/05/26


放課後の旧校舎、突き当たりの一室。そのドアには、重厚な明朝体で書かれたプレートが掲げられている。


『R.D.C』


このいかにも学校の利権や裏社会を牛耳っていそうな怪しげな名称のせいで、生徒たちの間では「闇の投資サークル」だの「生徒会を裏で操るエリート集団」だのといった、頭の悪そうな噂が絶えない。


結論から言うと·······んなこたーない。


「ククク。サナよ、始めようではないか、我らが『R.D.C』の活動を······」


そう言って、お気に入りのカエル柄の湯呑みを畳にそっと置いたのはリコだ。小柄でうるさくて、考えるより先に手が出るタイプの単細胞。


「まぁ、ただのボランティアサークルなんだけどな。んで、オメーはただ菓子が食いてーだけだろ」


私はスマホの画面から目を離さずに、低めのトーンで釘を刺す。


「ふえー……。でも、お茶はおいしいよ? 昨日の草むしりのお礼に、お隣のタキさんがくれた新茶だもん……」


170センチを超えるモデル並みの長身を申し訳なさそうに丸めて、急須から上る湯気を嬉しそうに眺めているのはマサミ。

これに加えて、運動神経抜群で中性的な王子様ルックスだ。まぁ、中身はただのふえー系女子だから、天は二物を与えんのよ。


そう、我がR.D.Cの実態は、週末に死ぬほど地域に貢献ボランティアし、平日の放課後はその報酬として貰ったお茶菓子を貪るだけの、ただのまったり空間である。


正式名称はRegional Development Council······リージョナル・ディベロップメント・カウンシル······意味は地域開発評議会······何か文句ある? カッケーからだけど?


タキさんの新茶を一口すする。適度に苦味があって美味い。

みたらし団子を、指と指の間に5本挟み、貪り食う騒がしいリコと、まったりお茶をすすってるポンコツなマサミ。

この二人と過ごす、生産性ゼロの無駄な放課後の浪費タイムを、私はそれなりに気に入っていた。


――そのささやかな結界が、無遠慮な足音によってぶち壊されるまでは。



ガラガラッ! と強引に開け放たれた引戸。そこには、遠慮も配慮も無い図々しさだ。


せっかくのタキさんの新茶を台無しにする、過剰なまでの制汗スプレーの匂いと、拭ききれていない汗の香り。


「ちょっとマサミちゃん、探したよ! なんでこんな薄暗い部屋に居るの?」


聖域を踏み荒らしに来たのは、バレー部とバスケ部の女子達。

先頭の部長らしき女子は、手に持っているスポーツドリンクのボトルを、リコの机にドンと置く。


「あぁっ? 」


当然のようにキレるリコ。しかし、それよりマサミだ、長い手足をさらに縮こまらせて「ふぇ……」と小さな悲鳴を上げた。


「ウゼーの来たわ」


リコが露骨に嫌そうな顔をして、カエル柄の湯呑みを口に当てて、全て飲み干す。スゲーな、猫舌の私じゃ無理だ。


目の前の運動部連中(コイツら)は、マサミの圧倒的な運動神経を都合のいい便利屋扱いしている。性格上、NOと言えないマサミが一回だけ助っ人に参加して以来、味を占めたらしい。


「今週末に練習試合あるからさ! とりあえず、今から練習に来てよ! 」


「あ、あの、私、その……週末のボランティア、じゃなくて、R.D.Cの活動もあって、ちょっと最近疲れちゃってて……」


マサミの言葉は嘘じゃない。週末に地域の高齢者宅の網戸洗いや粗大ゴミ運びを笑顔でこなしたマサミの目の下には、うっすらとクマができている。平日の放課後くらい、ダベって体力を回復させて、何が悪いのだろう?

それが我々、 R.D.C(地域開発評議会)のポリシーなんだが?


私はスマホの録音アプリの待機画面をチラリと確認し、机に指先をトントンと打ち付けた


「てか、アンタらさ? 」


私は努めて低く、よく通る声で割り込んだ。


「どっちの部も人数自体は足りてるよね? 他部活の助っ人に頼る暇があるなら、その出場枠を自分のところの部員に割いて、死ぬ気で鍛え直したらどう?」


一瞬、部室の空気が凍りつく。運動部女子たちの顔が、侮蔑と怒りで引きつっていくのがわかった。


「……はあ? なによあんた。文化部風情が偉そうに」


バスケ部の部長が、私を睨みながら、一歩踏み出して来る。


「運動神経バツグンのマサミちゃんを、こんな意味不明な部活に縛り付けるなんて勿体無いでしょ! あんたたち、スタイル良いマサミちゃんを神輿にして、クラスで威張ってるだけの金魚のフンじゃん!」


よくもまあ、そこまでテンプレな暴言が口から出るものだと感心する。

だが、私の隣で導火線が焼ききれた奴が居た。


「んだとゴラァアア! マサミの親友(ダチ)のウチらを······馬鹿に······馬鹿にするなぁあアアア!」


案の定、リコがパイプ椅子を蹴飛ばし、威嚇する。その様は、まさに小さな巨人の如く勇壮だ。でも、備品(パイプ椅子)は大切に扱ってね!


「リコ、それ、マサミが言うから格好いいセリフ。お前が言うと圧倒的にダサい」


「サナ、身内へのキレッキレのツッコミやめて!?」


「ふえー! 待って、二人とも、私のために喧嘩しないでぇ……! ふえええん!」


一番背の高いマサミが、一番泣きそうな顔をして頭を抱えて座り込む。

混沌を極める部室で、わたしはスマホの鹿苑寺ボタンをタップした。


「な、なによコイツら……! マサミちゃんもこんな奴らに脅されて、無理やりこの部活に居させられてるんでしょ!? かわいそう!」


バレー部の女子が、大袈裟に肩をすくめて同情してみせる。その薄っぺらい被害妄想に、私は内心で呆れ返るばかりだ。脅すも何も、週末のボランティア終わりにマサミが「皆でお茶飲んでる時が一番幸せぇ……」とフニャフニャ笑っているのを、こいつらは知らないのだ。


「これ以上、私たちの部室を汚して、メンバーを侮辱するなら先生に言うから」


私が淡々と言い放つと、彼女たちは待ってましたとばかりに、下品な薄笑いを浮かべた。


「は? 先生にチクる? ウケるんだけど! どーぞ言えば? お菓子食べて駄弁ってるだけのクソ部活の言うことなんか、先生たちが聞くわけないじゃん!」


「そうだよ! 偉そうにすんな死ねクソ女共! さっさと潰れろクソ部活!」


「マサミちゃん! 週末、よろしくね~! 」


バンッ! と、壊れんばかりの勢いで部室のドアが閉められる。

嵐が去った後の部室には、ぬるくなった新茶の湯気と、重苦しい沈黙だけが残された。


「……う、うう……。ごめん、ね……っ、私のせいで、二人がこんなひどいこと言われて……」


マサミが長い手足で顔を覆い、ぽろぽろと大粒の涙を畳にこぼし始める。その肩は小さく震えていた。

リコが慌てて「マサミは悪くないって! ウチら敵作りやすいからさ!」と短い腕で抱きつく。


まぁ、リコは少し改めて欲しい所だけど······私はゆっくりと立ち上がり、マサミの元へ歩み寄った。そして、その少し癖のある髪を優しくポンポンと叩く。


「泣かなくていいよ、マサミ。悪いのはあいつら。……それに、私は『タキさんの新茶を邪魔された恨み』を絶対に忘れない······」


「サナちゃん······」


「食べ物の恨みはウチら忘れねーからな! 」


二人が唾を飲み込み、私を見つめる。

私はポケットからスマホを取り出し、画面を二人に向けた。そこには、綺麗に波形を描きながら秒数を刻み続けている音声ファイルの画面。


「もちろん、全部録音済み。『死ね』『潰れろ』は一発アウトのパワーワード。完全な暴言の証拠ね」


「キター! 流石! 学校を裏で掌握する女! 」


「褒め言葉として受け取っておくよ。……さあリコ。ここからはお前の仕事。職員室の諜略よろ」


私の言葉に、リコがニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。

R.D.C(私たち)は毎週のボランティアだけでなく、教師陣の雑務を積極的に引き受けてる。助っ人の有無で決まってしまう試合しか出来ない運動部なんかより、教師達の信頼は高い。

そしてリコ。その暴君のような性格とは裏腹に、小柄で可愛らしい容姿と愛嬌で教師陣······特にベテランの教師達からは、子供や孫のように可愛がられている。

地域の人達のウケも良いのだ。


「お任せあれ! ウチらの大事な部室とマサミを泣かせた罪、じーっくり教え込んでやるんだから!」


リコはスマホの音声データを受け取ると、涙目のマサミに「すぐ仇取ってくるからね!」と言い残し、文字通り職員室へと爆走していった。


╴╴╴╴



「――先生ぇえええ! ううっ、ひどいんです、運動部の人たちがぁ……っ!」


職員室の重い扉を涙目でぶち開けたリコの演技力は、主演女優賞をあげてもいいレベルだった。

日頃からリコを可愛がっている教師陣は、椅子をガタタっと倒すような勢いだ。

「どうしたのリコちゃん」「何かあったのか!?」と色めき立つ職員室に、リコは私が渡したスマホの録音データを再生してみせた。


『駄弁ってるだけのクソ部活!』


『偉そうにすんな死ねクソ女共! さっさと潰れろクソ部活!』


スピーカーから流れる、運動部女子たちの生々しい怒号と暴言。

それを聞いた瞬間、職員室の温度が文字通り氷点下まで下がったのを、廊下で聞き耳を立てていた私は見逃さなかった。

特に、地域とのパイプ役の教頭は、額から汗を北米の滝のように流している。


◆◆◆◆



結果、臨時の職員会議が秒速で招集され、異例のスピードで校内新ルールが制定された。


【公式戦で人数が足りない場合を除き、他部活からの強引な勧誘、および常態化した助っ人の要請は一切を厳禁とする。違反した部活は活動停止処分を検討する】


はい勝ち。これでマサミを苦しめる鎖は消えた。



「おー、やってるやってるー!」


翌日の放課後。夕方の西日が差し込む体育館の窓の外で、リコが嬉々として声を上げた。


中を覗き込むと、昨日うちの部室を荒らしに来たバレー部とバスケ部の女子たちが、激怒した顧問の先生の前に立たされ、猛烈に搾られている真っ最中だった。


「他部の生徒に頼るとは何事だ!」「日頃の弛んだ甘えが今回の暴言に繋がったんだ、全員グラウンド50周!」という怒号が外まで響いてくる。まぁアンタらがもう少ししっかり監督してて欲しかったもんだけどね。


「自業自得だな」


私は腕を組んで冷ややかにその光景を見下ろす。マサミも隣で、今度は嬉しそうにほっと胸をなでおろしていた。


「あ、見つかった! おーい、あ・く・に・ん・ど・もー! アッカンベー!」


怒りでこちらを睨みつけてきた彼女たちに向けて、リコが全力で両目の下を引き下げてベロを出す。キレッキレやん。


「さて行くよ」


「あいたっ!? サナ、襟元引っ張らないで!」


「ふふ、二人とも、早く部室に戻ってお茶にしよう?」


私がリコの首根っこを掴んで引きずり、マサミがその後に続く。

かくして、私たちのR.D.C(地域開発評議会)に、再び静寂が戻ってきた。


部室の引き戸を開けると、昨日とは違う、穏やかな西日の匂いが出迎えてくれる。


「オッラ! じゃあ早速、今週末の『地域の物産展ボランティア』のミーティングを始めっぞ!」


リコがホワイトボードの前に立ち、天井に拳を突き上げる。


「力仕事もあるから、各自、週末に向けて体力を回復させるように」


「ふえー、了解サナちゃん! 私、しっかり休んで週末ガッツリ頑張るね!」


「さ、お茶が淹れたてのうちに、タキさんの残りの団子を食べちゃおう」


お茶をすする、ズズッというかすかな音。

この無駄で、生産性がなくて、けれど何よりも愛おしい放課後の時間を、もう誰にも邪魔させはしない。




▼▼▼▼




それから、数ヶ月がたった。


私たちは無事に三年生へと進級し、相変わらず放課後の旧校舎の一室で、出がらしの緑茶をすすっていた。

あの日制定されたルールのおかげで、マサミが理不尽な助っ人に駆り出されることは二度となかった。私たちのR.D.C(地域開発評議会)の平穏は、完璧に守られたのだ。



「はいはい! 新情報キター! 」


先日の地域お花見会の報酬である、どら焼きを口一杯に頬張ったリコが、相変わらずの情報通ぶりを発揮する。


「去年、ウチらをコケにした運動部連中いたじゃん? 全員部活追放されたんだって! 」


「えっ、そうなの? 」


どら焼きを食べる前のマサミは、大きな目を丸くする。


「うん! 今年の春、中学時代に県大会とか全国で暴れてたガチのエースクラスの新入生が、ごっそりその部活に入ってきたんだって。そしたら部活の雰囲気が一気に強豪校ばりの超スパルタに変わっちゃってさ。今までマサミを助っ人にしようとしてサボってたアイツら、新しい練習メニューに全くついていけなくなって、居辛くなって3年は最後の大会前に引退、2年は退部したらしいよ! 」


リコが机を叩いて爆笑する。マサミも「ふふ、ちょっとかわいそうだけど……よかったぁ」と、ようやく過去のトラウマから完全に解放されたように、穏やかに微笑んだ。


二人の賑やかな笑い声を聞きながら、私は手元のスマホの画面を眺め、フッと口元をニヤリと歪めた。


「サナちゃん? 何見てニヤニヤしてるの? 顔がすっごい悪い顔してるよ?」


マサミが怯えたように私を見る。


「元から悪人面じゃね? 」······とリコ、やかましいわ!


「いやあねえ? そんなに勝ちたいなら、と最強の助っ人達を募集してみたんですよぉ」


私はスマホの画面を二人の前に差し出した。


部活動紹介ページのバレー部とバスケ部のページに【狙うは全国優勝のみ、なんだが?】 【大物食いこそが、スポーツの醍醐味なんだが? 】【ガチ勢募集、半端な人は要りません】······と書いてある。


「この女······ホームページを改竄しやがったな······! 」


「ふえー······」


そう。あのガチ勢の新入生たちがこぞって運動部に入学し、奴らを駆逐するハメになった原因は、他でもない。


······私だ。


「いやぁ、広報担当の子に? 推し? のアクスタプレゼントしたら快く変えてくれたよ? 」


こんなにエース級が集まるとは思ってなかったが。


「ふえー! サナちゃんかっこいい!」


「騙されるな! マサミよ、コイツの腹の中はタキさんの饅頭の餡子よりもドス黒いのだ! 」


この子達の笑顔のためなら、私は悪魔にでもなる。


夕暮れの部室に、いつも通りの、けれど少しだけ賑やかさを増した3人の笑い声が響き渡る。



fin






お読みいただき、ありがとうございます。


運動部の部員より上手い助っ人と言う設定。正直、学生時代に運動部だった私は、う~んと言う気持ちでした。


下手なりに毎日猛練習してたため······ねぇ?


ま。勿論、人数が足りずにってケースは仕方ないですけどね。


平気な面して、助っ人頼みに来るのも······ねぇ?


マサミみたいな、運動神経良いキャラが文化部に居るって設定もあっても良いじゃん。ねぇ?


あと、謎部活。男が居ないパターンも良いんじゃない? と。作中に男は教師しか出てませんが、一応共学です。


私の卒業した高校は茶道部や家庭部に男子が行けば、顧問の先生にキレられて追い出されてましたね。


アンチテンプレ界隈。新風を吹き込んでみました。


サナとリコは、テンプレの善玉作品キャラですが(笑)







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