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決まりきらない夜

夜の博麗神社は、静かだった。


風もなく、虫の声もない。


ただ――


何かが、わずかにズレている。


霊夢は箒を止めた。


石畳の上に、誰かがいる。


いや、“いるように見える”。


「……あんた、誰?」


少女は、振り返る。


笑っている。


――ように見えた。


「んー……」


少女は首を傾げる。


その動きが、ほんの少し遅れて二重になる。


「決まってないかな」


霊夢は眉をひそめる。


「名前くらいあるでしょ」


少女は少し考えて、言う。


「揺界 循」


その名を口にした瞬間、空気が揺れた。


まるで、音が確定しきらなかったみたいに。


「……変な名前ね」


「そう?」


循は笑う。


その笑顔は、少しだけズレていた。


「霊夢は、ちゃんと決まってるよね」


「当たり前でしょ」


霊夢は即答する。


「ここにいる。私が、博麗の巫女」


循は、少しだけ楽しそうに目を細める。


「それ、ほんと?」


次の瞬間。


霊夢の足元が、揺れた。


地面に立っているはずの足が、


“接している”のか“浮いている”のか、


一瞬わからなくなる。


「……!」


霊夢は一歩引く。


だが、その一歩が――


踏み出されたのかどうか、微妙に曖昧になる。


「なに、これ……」


循は、軽く手を振った。


「揺れてるだけだよ」


「何が?」


「境界」


その言葉と同時に、


空間が、微かに歪む。


鳥居の輪郭が、二重になる。


夜空の星が、ほんの少しズレる。


「当たるかどうか」


循が指を鳴らす。


一発の弾が、霊夢に向かって飛ぶ。


避けた。


――はずだった。


だが次の瞬間、


“当たったかもしれない”感覚が残る。


「っ……!」


霊夢は距離を取る。


「何してるの、あんた」


「別に」


循は、くるりと回る。


その動きは、滑らかで――


どこか連続していない。


「決めてないだけ」


「は?」


「当たるかどうか」


循は、霊夢を見る。


「まだ揺れてるでしょ?」


霊夢は黙る。


確かに――


さっきの弾は、


“当たっていない”とも言い切れない。


「……なら」


霊夢は札を構える。


「決めればいいだけよ」


その声は、はっきりしていた。


「ここにいるのは私」


「当たってないのは事実」


「全部、私が決める」


一瞬。


空気が、止まる。


循の周囲の残像が、ぴたりと止まる。


「……あ」


循が、小さく声を漏らす。


「それ、ちょっとやだな」


霊夢の札が、光る。


「決めるわよ」


その瞬間。


世界が、収束する。


揺れていた境界が、


一本の線になる。


「っ……!」


循の体が、一つに固定される。


分裂していた影が消える。


揺れていた瞳が、止まる。


「……決まってる……?」


循が、ぽつりと呟く。


「これ……」


「終わり?」


霊夢は一歩踏み出す。


「そうよ」


「ここは幻想郷」


「曖昧なままじゃいられない場所」


その言葉が、境界を固定する。


循の体が、わずかに歪む。


だが――


次の瞬間。


「……でもさ」


循の輪郭が、再び揺れる。


「決めたって」


「また揺れるよ?」


霊夢の札が、わずかにブレる。


「……!」


「だって」


循は、笑う。


今度は、はっきりと。


「決めた瞬間に、“外”ができるでしょ?」


その言葉と同時に、


固定されたはずの世界に、


わずかなズレが生まれる。


「だから」


循は一歩近づく。


「終わらないよ」


「これ」


霊夢は、黙る。


確かに。


決めたはずの“境界”の外に、


また、揺れが生まれている。


夜の神社。


静寂と揺動が、


同時に存在している。


勝敗は――


まだ、決まっていない。

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