第5部 第37話 湿熱の迷宮――蒸し風呂の設置
霊峰アイスガルドの中腹、ハクザン軍の工兵隊とアイリス、エヴァ、テイラーは、ルーニーの指示通り岩肌を横に穿ち、地下水脈の「急所」を目指して掘り進めていた。
外は相変わらずの吹雪だが、トンネルの奥へ進むほど、空気は異様な湿り気を帯びていく。
「(はぁ、はぁ)……ルーニー様。……急に……温度が上がってきましたわ……。さっきまでの寒さが嘘のようです……」
アイリスが、額に浮かぶ汗を拭いながら呟く。細マッチョに引き締まった彼女たちの肉体は、今度は内側からの地熱に反応し、火照り始めていた。
「当然だ。地下水脈の真上にいるんだからな。……おい、エヴァ、テイラー。そこが爆破ポイントだ。魔法陣の刻印を急げ」
「……っ! はい、ルーニー様! ……ですが、ああっ、蒸気がすごくて……視界が……」
エヴァが魔法陣を描こうとするが、吹き出した高温の水蒸気がトンネル内に充満し、視界を白く染め上げる。さらに、凄まじい湿気が彼女たちの衣服を容赦なく濡らし、鍛え抜かれた肉体のラインを露骨に浮かび上がらせていた。
(……クソッ、何なんだこの状況は。寒さの次は蒸し風呂かよ。あいつらの服が張り付いて、見てるこっちの理性が試されてるじゃないか!)
ルーニーはイライラを隠そうと、わざと厳しく声を荒らげた。
「おい、服が濡れたくらいで動揺するな! 手を止めるなと言っただろう!」
「……申し訳ありません、ルーニー様っ! ……でも、この熱気……なんだか、ルーニー様にお仕置きされている時のような……不思議な充足感が……っ!」
テイラーが、濡れて透けた前髪の隙間から、恍惚とした瞳でルーニーを見上げる。
ドMな彼女たちにとって、この極限の「高温多湿」もまた、新たなご褒美へと変換されつつあった。
「(ボゴォッ!!)」
その時、地底から不気味な震動が伝わってきた。地下水の圧力が限界に達し、岩の隙間から熱湯が噴き出し始める。
「ルーニー様、危ないっ!」
アイリスが咄嗟にルーニーを突き飛ばし、自らの肉体で熱湯の飛沫を遮った。
「……バカ! アイリス、熱くないのか!?」
「……熱いですわ。……でも、ルーニー様を守るためなら、この身が茹で上がっても構いません……。さあ、早く起爆の準備を!」
(……なんなんだよ、こいつら! どいつもこいつも極端なんだよ! ……だが、もう後戻りはできない。セラフィナ、お前の『氷の世界』を、今すぐサウナに変えてやるよ!)
ルーニーは最後の一撃として、自らの魔力を地下の魔法陣へと流し込んだ。
「全員、退避だ! 三分後に、この山は爆発するぞ!!」
三人の家臣を抱えるようにして、ルーニーは蒸気渦巻くトンネルを脱兎のごとく駆け抜けた。背後からは、大気が震えるような「ゴゴゴ……」という地鳴りが追いすがってくる。
ついに、霊峰アイスガルドが、内側からの熱情に耐えきれず「咆哮」を上げる時が来たのだ。




