第5部 第36話 蒸気の咆哮――水蒸気爆発作戦
山麓のキャンプ。焚き火の爆ぜる音だけが響く中、ルーニー・ハクザンは地図を広げ、アイリス、エヴァ、テイラーを呼び寄せた。
「……いいか。正面から登って凍え死ぬのはもう御免だ。だから、山の『内側』から壊す」
アイリスが毛布を握りしめ、不思議そうに尋ねる。
「……内側から? 爆弾でも仕掛けて、山を崩すのですか?」
「いや。この霊峰アイスガルドの地下には、強烈な地熱源と、それに熱せられた巨大な地下水脈がある。……お前たちには、ハクザン軍の工兵隊と共に、中腹の急所に横穴を掘ってもらう」
ルーニーはナイフの先で、山脈の一点を鋭く指した。
「そこに特級の爆発魔法を叩き込み、地下水脈の『蓋』をぶち抜く。……急激に熱せられた地下水が、逃げ場を失って一気に気化すればどうなると思う? ……超高圧の水蒸気爆発だ」
エヴァが目を見開く。
「……水蒸気爆発。……つまり、山そのものを巨大な蒸し器にする、ということですか?」
「そうだ。氷の結界なんて知ったことか。内側から数千、数万トンの熱湯と蒸気を噴き上げさせ、山頂の氷ごとセラフィナを吹き飛ばしてやる。……冷徹な氷の女が、茹で上がって真っ赤になる姿が目に浮かぶな」
(……あー、イライラする。あんな冷たい風に吹かれて震えてたなんて、思い出すだけで腹が立つ。今度はこっちが熱い思いをさせてやる番だ!)
ルーニーの瞳に、合理的な狂気が宿る。
「アイリス、エヴァ、テイラー。お前たちには最深部、爆破ポイントへの魔法設置を任せる。……昨日の寒さとは正反対の、蒸し風呂のような地獄になるだろうが、耐えられるな?」
三人は、自分たちの失敗を「知略」で塗り替えようとする主君の姿に、再び魂を燃やした。
「……っ! はい、ルーニー様! 私たちの熱い忠誠心で、霊峰ごと蒸しあげて差し上げますわ!」
「筋肉が……今度は熱さで喜ぶことになりそうですわ……!」
三人は再び立ち上がった。
今度は「耐える」戦いではない。ルーニーの奇策を成功させるための、精密な工兵戦が始まる。




