第5部 第34話 極寒の霊峰――冷却不能な情熱
「……いいか、お前たちのその有り余ったエネルギーは、この『霊峰アイスガルド』の雪辱に叩きつけてこい」
ルーニー・ハクザンは、一面の銀世界を指差した。
西の砦での「熱気」を鎮めるため、あえて過酷な極寒地帯への遠征を強行したのだ。だが、目の前の三人は、吹雪の中でも相変わらず肌の露出が多い軽装のままである。
「(ふぅ……)」
アイリスが白く冷たい息を吐きながら、引き締まった腹筋をピクリと震わせた。
「……ルーニー様。この寒さ、むしろ心地よいですわ。冷気で筋肉が引き締まり、貴方への想いがより純粋に研ぎ澄まされていくようです……」
(……何なんだよ、こいつら。零下の気温の中で、なんでそんなに平然としてるんだよ。魔力燃焼ダイエットで基礎代謝が上がりすぎてるのか!?)
ルーニーは厚手の毛皮に身を包みながら、寒さよりも、彼女たちの「視線」の熱さに当てられてイライラを募らせていた。
「おい、テイラー。先行しすぎだ。……エヴァ、魔法で暖を取るなと言っただろう。魔力の無駄遣いだ」
「……っ! はい、ルーニー様! もっと厳しく、もっと冷たく……私を律してくださいませ……!」
エヴァが、寒さに赤らめた頬を緩ませながら、ルーニーの言葉を「ご褒美」として飲み込んでいく。
その時、霊峰の霧の中から、冷徹な魔力が漂ってきた。
現れたのは、魔王軍幹部、「氷結のセラフィナ」。彼女の力は、物理的な凍結だけではない。対象の精神を凍りつかせ、最も「脆い記憶」を見せて絶望させる精神干渉魔法の使い手だった。
「……愚かな。こんな極寒の地に、これほど扇情的な娘たちを連れてくるとは。……その情熱、まとめて凍らせてあげましょう」
セラフィナが杖を振ると、三人の周囲に青白い氷の結界が張られた。
それは、彼女たちの「欲望」を逆手に取り、ルーニーへの想いを「拒絶」へと変換させる呪いのはずだった。
だが。
「……温かい。ルーニー様からの……『愛の鞭』が、魂を焼くようですわ……!」
アイリスが、氷の結界に触れながら恍惚とした表情を浮かべる。
「この冷たさ……ルーニー様の冷徹な瞳そのもの……! 溜まりませんわ!!」
エヴァとテイラーも、呪いによる精神攻撃を、あろうことか「ルーニーによる新しいプレイ」として脳内変換し、逆に力を増幅させ始めたのだ。
(……はぁ!? 呪いすら楽しんでやがるのか!? セラフィナも引いてるじゃないか、あの顔を見ろよ!)
案の定、刺客であるセラフィナは、想定外の反応に「……な、何なの、この子たちは……気持ち悪い……」と、戦慄して後退りしていた。
「……セラフィナ。同情はしないが、お前は相手を間違えたな」
ルーニー・ハクザンは、剣を抜き、呆れ果てた溜息をついた。
「……おい、お前ら! 敵を怯えさせてどうする! さっさとその結界をぶち破って、仕事を終わらせろ! 終わったら……特別に、一人一発ずつ、お尻を叩いてやるからな!!」
「「「はいっ!! 喜んでーーっ!!」」」
爆発的な魔力と共に、三人の「細マッチョ」な美神が、雪原を蹴立ててセラフィナへと襲いかかる。
霊峰の氷すら溶かすほどの、異常な忠誠心(と変態性)の前に、魔王軍の刺客は為す術もなく圧倒されていくのだった。




