第5部 第33話 狂熱の残響――「再教育」の副作用
魔王軍の先遣隊を文字通り「粉砕」した翌日。
西の砦には、勝利の余韻というにはあまりにも重苦しく、熱い空気が漂っていた。
「……ルーニー様。昨日の戦いぶり、いかがでしたでしょうか。もっと……もっと鋭いご指摘をいただけませんか?」
アイリスが、特訓用の薄い着衣から浮き出た見事な背筋を震わせながら、ルーニーに詰め寄る。エヴァとテイラーもまた、獲物を狙う獣のような瞳で、ルーニーの言葉(あるいは叱責)を一言も聞き漏らすまいと跪いていた。
(……何なんだよ、このプレッシャーは。敵を倒してスッキリした顔をするどころか、余計にギラついてやがる。特訓のしすぎで、脳まで筋肉とドMの快楽に染まっちまったのか!?)
ルーニー・ハクザンは、椅子に深く腰掛け、眉間を指で揉んだ。
彼女たちは今、細マッチョという機能美の極致にいる。昔の可愛らしさとは違う、研ぎ澄まされた美刃のような色気。だが、その瞳に宿る熱量は、主君であるルーニーの理性をじりじりと削るものだった。
「……お前たち。エネルギーが余っているようだな。ならば、戦場での火照りを冷ましてこい。砦の北壁の修復作業だ。石材を一人で十個ずつ運び込み、日暮れまでに積み上げろ。……道具は使うな。己の肉体だけでやれ」
「「「はいっ……!! 喜んで……っ!!」」」
三人は待ってましたと言わんばかりに、弾かれたように飛び出していった。
数時間後。ルーニーが様子を見に行くと、そこには異様な光景が広がっていた。
あまりの熱気に、三人は上着を脱ぎ捨て(といっても、訓練用のアンダーウェアのみ)、汗を滝のように流しながら巨大な石材を担いでいた。
「(はぁ、はぁ)……この重み、ルーニー様の期待の重みですわ……っ!」
「(ググッ)……筋肉が、喜んでいます……。ルーニー様に、もっと、もっと……!」
隆起する肩の筋肉、引き締まったウエスト、そして汗で光る美しい肌。
ハクザン軍の男たちが「おいおい、目のやり場に困るぞ……」と顔を赤らめて避けて通る中、三人はトランス状態で石を積み上げていた。
(……バカか。何なんだよ、あの美しすぎる工事現場は。あいつら、自分がどれだけ無防備で、どれだけ扇情的な姿をしてるか分かってないのか!?)
ルーニーは、思わず視線を逸らした。
かつての「ぽっちゃり」した三人を「可愛い姿に戻れ」と願っていたはずなのに、いざ理想以上の「戦士としての美しさ」を手に入れられると、今度は自分の中の「男」の部分が激しく揺さぶられてしまう。
(……クソッ。俺がしつけた結果がこれかよ。昔のままでも困るが、今のあいつらは……刺激が強すぎるんだよ! イライラする……っていうか、落ち着かないんだよ、こっちが!!)
「……おい、お前ら! さっさと服を着ろ! 砦の修復はもういい、全員冷水を浴びて頭を冷やしてこい!!」
ルーニーの怒声が、夕暮れの砦に響き渡った。
三人は「えっ、まだいけますのに!」と不満げな声を上げながらも、ルーニーが耳まで赤くしているのを見逃さず、ニヤリと肉食獣のような笑みを浮かべるのだった。




