第5部 第32話 狂愛の進撃――研ぎ澄まされた牙
「……いいか。特訓の成果を見せろ。無様に負けたら、次は今の倍の重石を背負わせるからな」
西の砦を奪還せんと押し寄せた魔王軍の先遣隊を前に、ルーニー・ハクザンが冷徹に言い放つ。
その背後には、かつての「ぽっちゃり」した面影など微塵もない、引き締まった細マッチョな美貌を取り戻した三人が並んでいた。
「(スッ……)」
アイリスが槍を構える。その二の腕には、しなやかな筋肉が躍動し、滴る汗が月光に反射して宝石のように輝いている。
「……ふふ。ルーニー様、見ていてくださいませ。貴方にシゴき抜かれたこの肉体が、どれほど鋭く、熱く……敵を貫くか」
「「「突撃ーーっ!!」」」
ルーニーの号令と同時に、三人の影が爆発的な速度で飛び出した。
それはもはや「軍」ではなく「災害」だった。
アイリスの槍は敵の装甲ごと胴体をぶち抜き、エヴァの魔法は精密かつ高威力で敵陣を焼き払い、テイラーは目にも止まらぬ速さで敵将の首筋に刃を立てる。
(……はぁ? 速すぎるだろ。こいつら、特訓で何を覚醒させたんだよ。……動きが良すぎて、後ろのハクザン軍が手出しできずに困ってるじゃないか!)
ルーニーの心中は、驚きと呆れで一杯だった。
さらに問題なのは、彼女たちが敵をなぎ倒すたびに、頬を紅潮させ、切なげな瞳でルーニーの方を振り返ることだ。
「……ルーニー様! 今の突き、見ていてくださいました!? 私の筋肉の動き、最高にキレていたでしょう!?」
「いいえ、私ですわ! 私の魔法の爆炎、ルーニー様の瞳を焼くほど美しかったはずです!」
戦場はいつの間にか、敵を倒すための場ではなく、「誰が一番ルーニーに美しく、逞しく、忠実であるか」を見せつけるための、壮絶なアピール合戦の場と化していた。
(……やめろ。敵を置き去りにしてマウントを取り合うな。……っていうか、あいつら、わざと敵の攻撃を掠らせて『もっと叱ってください』みたいな顔してこっちを見るなよ! 怖いんだよ、その情熱が!!)
敵兵たちは、あまりの圧倒的な武力と、それ以上に異様な「熱気」を放つ三人の女性騎士に恐れをなし、「ひ、ひいいっ! 化け物だ!」と悲鳴を上げて逃げ惑う。
結局、ハクザン軍が本格的に動く前に、魔王軍の先遣隊は壊滅した。
返り血を浴び、肩で息をしながら、さらに色気を増した三人がルーニーの前に跪く。
「ルーニー様……。勝利の……お言葉を……。そして……」
「(ゴクリ)……できれば、さらに厳しい『再教育』を……っ!」
(……なんなんだよ、こいつら。もう『可愛い昔の姿』どころか、『最強の狂犬』になっちまったじゃないか。……あーあ、明日からどうやってこいつらをしつければいいんだよ)
ルーニー・ハクザンは、勝利の歓声が上がる砦の上で、一人こめかみを押さえて深い溜息をつくのだった。




