第5部 第31話 鋼の肉体、燃ゆる情動――地獄の特訓・覚醒編
「……いいか、甘えは捨てろ。今日からは睡眠時間を削り、この魔力負荷重石を背負って砦の壁を垂直に登ってもらう。死ぬ気でやれ!」
「「「はいっ……! ルーニー様っ!!」」」
ルーニー・ハクザンの冷徹な号令が飛ぶ。アイリス、エヴァ、テイラーの三人は、かつての「ぽっちゃり」した体型を脱ぎ捨て、今や無駄な脂肪が削ぎ落とされた「細マッチョ」な美貌を取り戻しつつあった。
だが、問題はその「中身」だった。
「(はぁ、はぁ)……ああ、ルーニー様のあのお声……。罵倒されるたびに、体の芯が熱くなって……力が溢れてきますわ……!」
アイリスが、血管の浮き出た逞しい腕で岩壁を掴み、恍惚とした表情で登っていく。
「(くっ……)……筋肉が悲鳴を上げれば上げるほど、心が……ルーニー様への想いで爆発しそうですわ……! この疼きを抑えるには、もっと、もっと追い込まなければ……!」
エヴァもまた、研ぎ澄まされた脚線美を震わせ、限界を超えた速度で反復横跳びを繰り返す。
三人は、自分たちを限界まで追い込むルーニーのドSな指導に、この上ない悦びを感じていた。
肉体が引き締まり、魔力が研ぎ澄ぎ澄まされるほどに、彼女たちの「女」としての本能が暴走しそうになる。だが、それをルーニーにぶつけることは許されない。彼女たちはその行き場のない情動を、すべて「特訓のエネルギー」へと変換していた。
(……何なんだよ、こいつら。目が怖いんだよ。昔の可愛さは戻ってきたが、代わりに『野生の肉食獣』みたいな殺気が混ざってやがる……)
ルーニーは、三人の尋常ではないトレーニング風景を見て、背筋に冷たいものを感じていた。
指導が厳しくなればなるほど、彼女たちの動きはキレを増し、同時にルーニーを見つめる瞳には、獲物を狙うような熱い光が宿る。
「……おい、テイラー。そこで動きを止めるな。あと五百回だ!」
「……っ! はい……! ありがとうございます、ルーニー様……。もっと、もっと私を……壊れるまでシゴいてくださいませ……!」
テイラーが、滴る汗を拭いもせず、獣のような俊敏さで木人相手に連撃を叩き込む。
(……どうしてこうなった。俺はただ、戦える家臣に戻したかっただけなのに。これじゃあ、特訓が終わった瞬間に俺が食われちまうだろ。……っていうか、こいつら、俺が怒るのを待ってないか? 叱られるたびに動きが良くなるのは、主君としてどう喜べばいいんだよ!)
ルーニー・ハクザンは、自分を取り囲む「筋肉と欲求の嵐」の中で、一人深い溜息をつくのだった。




