第5部 第30話 狂王の孤独――出会った頃の君たちへ
「……座れ。今日は、お仕置きじゃない。話をしよう」
夜の静寂に包まれた砦の一室。ルーニー・ハクザンは、暴飲暴食でパンパンに膨れたお腹を抱え、情けなく座り込むアイリス、エヴァ、テイラーと膝を突き合わせた。
蝋燭の火が、ルーニーの影を大きく壁に映し出している。
「……これからの戦いは、今までとは比べものにならないほど過酷になる。魔王の本軍が動き出せば、今日のような甘い誘惑ですら、命を奪う凶器になるんだ。……このままでは、君らは本当に死んでしまう」
ルーニーは膝の上で拳を握りしめ、絞り出すような声で続けた。
「……正直に、君たちの本当の気持ちを教えてくれ。……俺は、もう会えないのか? 君たちと最初に出会ったあの頃……俺を信じて、真っ直ぐな瞳でついてきてくれた、あの頃の君たちには、もう二度と会えないのか?」
その問いに、三人は息を呑んだ。
ルーニーにとって、彼女たちは暗い魔族領の中で見つけた数少ない「光」だった。かつての彼女たちは、もっと志が高く、ルーニーの隣に立つために自分を律していたはずだ。
「……ルーニー様」
アイリスが、膨らんだお腹を恥じるように隠しながら、ぽろぽろと涙をこぼした。
「……申し訳ありません。……私たちは、貴方の優しさに甘えすぎていました。貴方が守ってくれる、貴方が何とかしてくれる……そう思っているうちに、私たちの心は、この体のように弛んでしまったのです」
エヴァが続く。
「……貴方が一人でグラトニーと戦っていた時、私たちは口いっぱいに肉を詰め込みながら、自分たちの醜さに絶望していました。……出会った頃の私たちは、もっと貴方の役に立ちたい、貴方に相応しい自分でありたいと、それだけを願っていたはずなのに」
テイラーが震える声で、ルーニーの服の裾をそっと掴んだ。
「……私たちの心は、まだここにあります。……でも、この肉体が、その心を閉じ込めてしまっているようです。……ルーニー様、私たちは、もう一度やり直したい。貴方が最初に見つけてくれた、あの頃の私たちに……いえ、それ以上の私たちに、なりたいんです」
ルーニーは目を閉じ、深く溜息をついた。
イライラしていた。情けないと思っていた。だが、その裏にあったのは、出会った頃の輝きを失っていく彼女たちへの「恐怖」だったことに、ルーニー自身も気づいた。
「……わかった。君たちの気持ちは、十分に伝わった」
ルーニーは立ち上がり、三人の頭を、最初に出会った日のように一人ずつ撫でた。
「あの頃の君たちが消えたわけじゃない。ただ、少し重なりすぎた肉の下に隠れているだけなんだろうな。……だったら、俺がそれを引っ張り出してやる」
ルーニーは、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「明日からは、地獄だぞ。……今のその体、全部『戦うための力』に作り替えさせてやる。覚悟はいいな?」
「「「はい……!!」」」
三人の返事は、出会ったあの日よりもずっと重く、そして力強かった。




