表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/119

第5部 第23話 母の聖域、あるいは絶たれた境界

シオンとの対峙を経て、自らの「過去の罪」に打ちのめされ、三人の「ぽっちゃりした献身」によってようやく立ち上がったルーニー。

だが、彼にはさらなる頭の痛い問題がのしかかっていた。

「……はぁ。アイリス、いつまでそうやって俺の袖を掴んでいる。掃除はどうした」

「……だって、ルーニー様がまたどこかへ消えてしまいそうで。……あ、お腹が鳴ってしまいましたわ」

アイリスがふっくらした腹部を押さえながら、不安そうにルーニーを見上げる。魔族領は人間領とは完全に断絶しており、商人の行き来など皆無だ。翡翠城にある備蓄と、ルーニーが自給自足で確保する魔獣の肉だけが頼りだが、三人の「幸せ太り」のせいで食糧消費が想定を上回っている。

そんな閉ざされた世界の中で、ルーニーは王国の母・エレオノーラのことを想っていた。

(あの母上なら、俺が生きていると確信した瞬間、軍を差し向けるような真似はしない。……むしろ、この世のすべてを焼き払ってでも、俺を「聖域(あの人の腕の中)」へ連れ戻しに来るはずだ)

エレオノーラの愛は、狂信的だ。

第1部でラインハルトを失った時、彼女の精神は一度壊れている。その息子が生きている――。もしその事実が彼女に伝われば、人間領と魔族領を隔てる「断絶」など、彼女にとっては紙切れ同然の障害でしかない。

「……シオン。お前の姉、ミツナを死なせた俺を、母上はどう思っている。……いや、聞くまでもないか。あの人は、ミツナの死すら『息子を守った名誉な盾』としか思っていないんだろうな」

捕虜であるシオンは、牢の端で力なく笑った。

「……エレオノーラ様にとって、あんた以外の人間はすべて石ころだ、ラインハルト。……あんたを奪い返すためなら、彼女は王国すら生贄にするだろうよ」

その時、城の入り口で騒ぎが起きた。

テイラーが、少しキツくなったメイド服を揺らしながら駆け込んでくる。

「ルーニー様! 大変です! 結界の境界線付近に、身元不明の『供物』が大量に置かれています! 最高級の絹、保存の効く贅沢な菓子、そして……貴方が幼い頃に好きだった玩具まで!」

交流などないはずの魔境の入り口。そこに届けられた、差出人不明の山のような物資。

だがルーニーには分かった。これは侵略ではない。

「……母上か。俺がここにいることを、言葉ではなく『餌』で確認しに来たのか」

狂信的な母は、息子を力で屈服させるのではなく、まず「慈愛」という名の鎖で包囲し始めたのだ。

「わあ……! 美味しそうなパイが山ほどありますわよ、ルーニー様! 食糧難もこれで解決ですわね!」

無邪気に喜ぶエヴァとアイリス。だがルーニーは、その山盛りの菓子を見て、背筋に冷たいものが走るのを感じていた。

その「愛」の重さは、ぽっちゃりした三人の肉体の重さなど比較にならないほど、重く、深く、暗いものだったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ