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第5部 第22話 狂王の落涙、あるいは枕としての乙女たち

シオンを捕虜として翡翠城へ連れ帰ったものの、ルーニーの心は限界を迎えていた。

「……部屋に入るな。誰も、だ」

そう言い残し、彼は自室の奥深くへと引きこもった。

大谷吉継の「義」も、神童ラインハルトの「知略」も、今の彼を救うことはできない。

(……俺は、ミツナの命を弄んだだけではないのか? 誰も死なせないと言いながら、結局はミツナの弟を絶望させ、また血の海に身を投じている……)

前世と今世の罪が混ざり合い、ルーニーは暗い部屋で、一人布団にくるまって震えていた。立ち上がらなければならないのは分かっている。だが、心が石のように重く、動かない。

その時、閉ざされた扉の向こうから「みしり……ぎしり……」と、床が悲鳴を上げるような音が近づいてきた。

「……ルーニー様。失礼しますわよ」

解錠術というよりは、もはや「物理的な圧力」に近い音を立てて扉が開いた。

入ってきたのは、アイリス、エヴァ、テイラーの三人だった。

「……来るなと言ったはずだ。今の俺は、お前たちが崇めるような王じゃない……ただの、人殺しだ……」

「ええ、知っていますわ。貴方はただの、過去に縛られた『泣き虫な神童』様です」

アイリスがベッドの端に腰を下ろすと、高級な寝具がかつてないほど「みっしり」と深く沈み込んだ。見れば、三人はルーニーを元気づけようと、自分たちが大好きな(そして太る原因になった)温かいスープや、バターたっぷりのパイを山ほど抱えている。

「ルーニー様、見てください。このスープ、私が一生懸命作ったんですの。……少し味見をしたら止まらなくなって、半分くらいになってしまいましたけれど(照)」

エヴァのふっくらとした頬には、まだパイの粉がついている。

今の彼女たちは、かつての鋭い美貌こそ影を潜めているが、その**「ぽっちゃり」**とした体つきには、翡翠城での穏やかで満ち足りた時間が刻まれていた。

「……お前ら、また丸くなったか?」

「失礼な! これは貴方への愛が詰まっているのですわ!」

テイラーが、パツパツになったメイド服の二の腕を揺らしながら、ルーニーの背中を強引にさする。その手のひらの、柔らかくて、驚くほど温かい感触。

「……俺は、ミツナを殺したんだ。シオンの言う通り、俺が生きていなければ……」

「いいえ。ミツナ様が守りたかったのは、今の貴方です。貴方がここで立ち止まったら、彼女は本当に『犬死に』になってしまいますわ」

アイリスは、ぷにぷにとした柔らかい腕で、震えるルーニーをそっと抱き寄せた。

「……辛いなら、今だけは私たちを『騎士』ではなく、ただの『抱き枕』だと思ってくださいな。これだけお肉がついていれば、寝心地だけは天国ですわよ」

三人の温もりと、ほんの少しの甘いお菓子の匂い。

「狂王」の仮面を脱ぎ捨てたルーニーは、彼女たちの柔らかい肩に顔を埋め、一晩だけ、声を殺して泣き続けた。

翌朝。

部屋から出てきたルーニーの瞳には、かつての鋭い光が戻っていた。だが、その奥には、自分を支えてくれる「肉厚な」仲間たちへの、深い信頼が宿っている。

「……全軍に告げろ。これより、王国との決戦準備に入る。……それと、アイリス。お前たちは今日から本格的な食事制限だ。昨日俺が食べた分、死ぬ気で走ってもらうぞ」

「「「ええええええっ!? そんなぁ!」」」

翡翠城に、いつもの活気ある(そして悲壮な)悲鳴が響き渡った。

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