第5部 第20話 亡霊の慟哭――語られた「真実」の代償
「……やっとこの日が来たな。あんたを殺すためだけに、俺は今日までエレオノーラ様と泥を啜ってきたんだ……ラインハルト!!」
乱戦の最中、ついにルーニーとシオンが対峙した。シオンの瞳は血走り、絶望と憎悪に焼かれた一人の男の目だった。
ルーニーは、その憎悪に満ちた叫びを真っ向から受け止める。
かつて、ラインハルトとして生きていた頃、ルーニーは最も信頼していた部下であるシオンにだけは、自らが「生まれ変わった存在」であることを打ち明けていた。だが、その告白がシオンを救うのではなく、彼を終わりのない復讐へと駆り立てる引き金になったことを、ルーニーもまた痛いほど理解していた。
「シオン。お前に話したことを後悔した日はない。だが、その結果がお前の心を壊したのだとしたら……それは俺の罪だ」
「罪だと!? ふざけるな! あの時、あんたが平然と『生まれ変わった』と告げた瞬間、俺の中で何かが死んだんだ! 姉さんは、あんたを守ってゴミのように死んだのに……あんたは別の体を手に入れて、また『神童』として新しい生を謳歌しようとした!!」
シオンは咆哮と共に、憎しみを込めた剣を叩きつける。
第1部で、ルーニー(ラインハルト)を逃がすために命を散らした忠義の少女――ミツナ。その姉を愛し、誇りに思っていたシオンにとって、ルーニーの「復活」は、姉の犠牲を土足で踏みにじる行為に他ならなかった。
「姉さんはあんたが好きだった。あんたを守るために死ねたことを、きっと幸せだと思っていたはずだ。だが、あんたが生きてちゃいけなかったんだ! あんたという存在が消えない限り、俺の中の姉さんはいつまでも浮かばれない!!」
シオンの執念は、エレオノーラと繋がることでさらに鋭利な殺意へと変わっていた。
「……シオン。お前に何を言っても、言い訳にしか聞こえないだろう。だがな、俺は一瞬たりとも、ミツナを忘れたことはない」
ルーニーは剣を抜かず、シオンの激情を最小限の動きでかわし続ける。その瞳からは「狂王」の刺々しさが消え、大谷吉継としての、深い哀悼の色が浮かんでいた。
「あいつを『駒』としてしか見られなかった俺の傲慢さが、ミツナを殺した。……だから俺は、今度こそ誰も死なせないために、怪物になってでもこの魔境を支配しなきゃならない。ミツナが命を賭けて守ったこの命、二度と無駄にはしない」
ルーニーの拳が、シオンの腹部にめり込んだ。
それは殺すための拳ではない。真実を知らされた苦しみから、復讐に縋るしかなくなった元部下を、現実へと引き戻すための、重く、悲しい一撃だった。
「……っ、がは……っ! あ、あああ……姉さん……ミツナ姉さん……!!」
膝をつき、子供のように泣き崩れるシオン。
賤ヶ岳の戦いの終焉。それは因縁の決着であると同時に、ルーニーが背負う「過去」が、最も残酷な形で清算された瞬間でもあった。




