第5部 第19話 翡翠城の戦い――魔境の「美濃大返し」
「アイリス王女を救出せよ! 狂王に辱められた悲劇の乙女たちに、救済(死)を!」
翡翠城を包囲したのは、シオンが率いる王国の正規軍五千。
シオンは、アイリスたちが「魔族に汚された」という偽の情報を流布し、救出を名目にした「口封じの殲滅戦」を画策していた。
一方、ルーニーはあえて城を空け、少し離れた魔物拠点へ遠征していると見せかけていた。シオンは今が好機と見て、一気に城門へ攻め寄せる。
「……掛かったな、粘着野郎」
だが、シオンが城門を破ろうとしたその瞬間。
遥か後方、数里(十数キロ)先にいたはずのルーニー率いる軍勢が、地平線を割って現れた。
魔族の騎獣を限界まで酷使し、寝る間も惜しんで駆け戻る――まさに魔境版「美濃大返し」である。
「なっ……!? なぜもう戻っている! あの距離を、この短時間で!?」
驚愕するシオン。だが、真の絶望は城内から現れた。
「……あら、シオン様。誰が『辱められた』ですって?」
城壁の上に現れたのは、ルーニーの「口移し」による魔力譲渡で全盛期以上の力を取り戻し、メイド服を翻す三人の姿だった。
ダイエットで引き締まった体、限界まで拡張された魔力の器。彼女たちは、ルーニーから学んだ戦術を完璧に実行に移す。
「アイリス、エヴァ、テイラー! 行け! 貴様らの強さを、あのクズに見せつけてやれ!」
ルーニーの号令と共に、三人は城壁から飛び降りた。
アイリスの神速の剣、エヴァの妄想を現実に変える広域破壊魔法、そしてテイラーの急所を的確に突く隠密術。
それはまさに、賤ヶ岳における「七本槍」を彷彿とさせる、圧倒的な個の武勇だった。
「ひ、ひぃっ! バケモノか貴様ら……!」
シオンの軍勢は、前後をルーニーの精鋭と、最強の「駒」へと再教育された三人によって挟み撃ちにされ、瞬く間に崩壊していく。
「シオン! 俺の『義』を汚し、俺の『教育』を無に帰そうとした罪、その命で購ってもらうぞ!」
ルーニーの野生の瞳が、獲物を捉えた。
かつての部下と、かつての主。因縁の戦いは、賤ヶ岳の勝家のごとく、シオンの無残な敗走へと向かっていく。




