第5部 第17話 怠惰の報い――狂王の折檻
深夜の翡翠城。
かつての部下であり、ルーニーに底知れぬ恨みを抱くシオンが放った刺客たちが、音もなく城内に侵入した。
ルーニーは、大谷吉継譲りの鋭い「聴覚」と「気配察知」で、その微かな靴音と殺気を捉えていた。
(……鼠が入り込んだか。シオンの奴、相変わらず粘着質な刺客を送りやがって)
一方、三人の女性たちが眠る豪華な客室。
元情報局長のテイラーもまた、その「音」には気づいていた。しかし――。
「……っ、体が、重い……!?」
いざ起き上がろうとしたテイラーは愕然とした。
翡翠城での生活があまりに快適すぎた。ルーニーが「毒だ」と言い張って提供した最高級の肉、甘い菓子、そしてフカフカのベッド。この短期間で、彼女たちの体はすっかり「幸せ太り」してしまっていたのだ。
「アイリス様、エヴァ様、起きて! 敵よ! ……でも、私、ドレスの脇がキツくて動け……」
そこへ窓を突き破り、シオンの刺客たちが躍り込む。
「死ね、狂王の女共!」
毒刃が振り下ろされようとしたその瞬間、扉が蹴り飛ばされた。
「――いい加減にしろ、このブタ共がぁ!!」
乱入したのは、怒髪天を突いたルーニーだった。
彼は刺客たちを「気配」だけで察知し、真田流の神速の体捌きで瞬く間に刺客の首をへし折り、テラスから投げ捨てた。
静まり返る室内。助かったはずの三人は、ルーニーの放つ「別の恐怖」に震え上がった。
「おい、テイラー! 元情報局長が、刺客に気づいておきながら肉の重みで出遅れるとは何事だ! アイリスもエヴァも、顎のラインが消えかかってるぞ!」
「る、ルーニー様、それは……貴方があまりに美味しいものを……」
「黙れ! 快適な監獄だと油断して、家畜のように肥えおって! 働かざる者食うべからずだ!」
ルーニーはあまりの「甘え」っぷりに、狂王の演技を忘れて素でキレた。
彼は逃げようとしたアイリスの腕を掴んで引き寄せると、その膝の上に乗せ――。
――パァァァン!!
「きゃあああっ!?」
王女アイリスの尻に、強烈な平手打ちが飛んだ。
「次はエヴァだ、こっちに来い! 妄想する暇があったら腹筋しろ!」
――パァァァン!!
「ひゃうんっ! ル、ルーニー様の愛の衝撃が、お尻にぃぃ!」(※妄想継続)
「最後はテイラー! お前が一番自覚が足りん!」
――パァァァン!!
「くっ……殺せ……! ですが、この刺激……悪くありませんわ……」
深夜の翡翠城に、狂王の怒鳴り声と、三人の女性たちの悲鳴(と一部の歓喜)が、リズミカルな打撃音と共に響き渡った。
「明日から全員、城内の雑巾がけと魔獣狩りの手伝いだ! 痩せるまで飯は抜き……にはしないが、野菜中心にするからな!」
(……ああ、もう! 守ってやるだけでも大変なのに、ダイエットまで管理しなきゃいけないのかよ! めんどくせえええ!)




