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第5部 第13話 情報官の分析と、乙女の迷走妄想

差し入れられた「魔物の肉(最高級ステーキ)」を前に、アイリスが沈黙する中、残りの二人が口を開いた。

「……信じられませんわ。あのルーニー様が、あんなに猛々しくなられて。これは……これはもしや、私を奪い合うための過酷な儀式を魔族たちに強いているのではなくて?」

頬を赤らめ、うっとりと虚空を見つめるのは伯爵令嬢エヴァだ。

彼女は極度の妄想癖があった。どれほど状況が悪化しようとも、彼女の脳内では常に「自分を中心とした甘美な悲劇」へと変換されてしまう。

「きっとそうですわ! あの冷たい瞳、あれは私への執着を隠しきれず、あえて突き放すことで私の愛を試しているのです……。ああ、ルーニー様、そんなに私を壊したいほど愛していらっしゃるのね……!」

「……エヴァ、いい加減になさい。今の彼は、そんな甘っちょろい状態じゃないわ」

冷ややかに釘を刺したのは、三人のなかで最年長、20歳のテイラーだ。

彼女はかつてハクザン公爵家の情報局長を務めていた才女である。ルーニーがいなくなった後の混乱で、有能すぎた彼女は王家に目をつけられ、結局はアイリスの「監視役兼護衛」としてこの地へ放り出された。

「局長の視点から言わせてもらえば、今のルーニー様は……完全に『王』の器です。しかも、我々の知る王国の王とは格が違う。あれは、自らの手で地獄を平らげた者の瞳です」

テイラーは、震える手でステーキを一口運んだ。その瞬間、彼女の鋭い味覚が違和感を察知する。

「……この肉、魔物の肉などではありませんわ。徹底的に血抜きされ、熟成された、王国でも滅多に口にできない最高級の牛……いえ、それに近い希少種の肉です。それも、驚くほど丁寧に調理されている」

「えっ……? でも、あんなに怖く『食わねえと死ぬぞ』って……」

アイリスが目を見開く。テイラーは情報の断片を繋ぎ合わせ、一つの仮説に辿り着いた。

「アイリス様、これはルーニー様の『計略』……あるいは、ひどく歪んだ、しかし確かな『配慮』です。我々を絶望させつつ、肉体だけは完璧な状態に保とうとしている。……情報官として断言します。彼は我々を殺す気など微塵もありません」

「まあ! やっぱり! 私への愛ゆえに、わざわざ魔境の果てから美味しいお肉を調達してくださったのね! ああ、なんて背徳的な美味しさなのかしら……!」

妄想を加速させるエヴァ。一方、テイラーの目は、この地下房の「不自然なほどの快適さ」を見逃さなかった。

(……この部屋、後から無理やり掃除されているわ。それも、つい数時間前。ルーニー様……貴方、一体何を企んでいるのですか?)

その頃、当のルーニーは、テイラーという「超一流の情報官」が自分の偽装を暴き始めているとは露知らず、翡翠城を無血開城させるための「嫌がらせ戦術」を部下たちに熱弁していた。

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