第5部 第10話 狂王の仮面、聖者の心中
「――地下の『再教育房』へ放り込め。人間としての心など残さないようにな」
冷酷な宣言と共に、ルーニーは翻って謁見の間を後にした。
背後でアイリスたちのすすり泣く声や、ゴルザの「へいへい、野郎ども運べ!」という荒っぽい声が聞こえる。
だが、重厚な扉が閉まり、一人になった瞬間。
ルーニー・ハクザンは、その場に崩れ落ちそうになった。
(……いや、マジかよ! 本当に来ちゃったよ!)
心臓がバックバクである。
かつての神童、現在の狂王。だがその内実は、前世の記憶を持つ一人の男だ。
(何考えてんだ公国の連中! ここは魔族領のど真ん中だぞ? 蛇もサソリも毒持ちだし、昨日は隣の部屋に魔力食いの巨大蜘蛛が出たばっかりなんだぞ! 14歳のガキに、女の子三人の命預けるとか正気か!?)
ルーニーは頭を抱えた。
本当は「武器」か「金」、あるいは「最新の魔導具」が欲しかった。それなら魔王軍との戦いにすぐ転用できるからだ。
(まさかこれ、公国側の『厄介払い』じゃないだろうな? 扱いづらい王女と令嬢を、死ぬの前提でこっちに放り投げたのか……? ああ、クソッ、守らなきゃいけない対象が増えただけじゃねーか!)
4年前、「キャッハ!」と笑ってカッコつけて出て行った手前、今更「危ないから帰れ」とも言えない。
(しかも俺、さっき『再教育』とか言っちゃったよ。何教えればいいんだよ。真田流の「泥にまみれて生き延びる方法」か? いや、あいつらにそんなことさせたら、俺の胃に穴が開く……!)
「……坊ちゃん。準備できましたぜ」
背後からゴルザが声をかけてくる。ルーニーは一瞬で「狂王の顔」に戻り、鋭い眼光で振り返った。
「……そうか。地下へ行くぞ」
(あああ、行きたくねえ! どんな顔して会えばいいんだよ! とりあえず、一番安全で清潔な部屋を『監獄』ってことにして閉じ込めておくしかないか……)
ルーニーの覇道は、思わぬ「お荷物」によって、急速に「過保護な保護者」の様相を呈し始めていた。




