第5部第9話「謝罪の品」の検品――かつての駒との再会
新生ハクザン国の拠点『白骨の牙城』。その謁見の間は、氷のような静寂に包まれていた。
ハクザン公国が「狂王」の要求に対し、差し出してきた「謝罪の品」。それは莫大な金銀財宝ではなく、かつてルーニーが支配し、最強の駒へと作り上げた三人の女たちだった。
「……連れてこい」
玉座で不遜に足を組み、退屈そうに頬杖をつく14歳のルーニー。
重い鉄の扉が開き、鎖で繋がれた彼女たちが姿を現した。
第一王女、アイリス。
伯爵家令嬢、エヴァ。
そして、テイラー。
かつては国の至宝、あるいは次代を担う才女と謳われた彼女たちの瞳には、恐怖と、自分たちを「物」として差し出した母国への絶望が混ざり合っていた。
「……あらら。随分と安っぽくなったな。俺が磨いてやった輝きが、たった4年でこうも濁るとは」
ルーニーの嘲笑が冷たく響く。
アイリスたちが目にしたのは、かつての洗練された「師」ではない。獣の皮を纏い、死の臭いを纏い、暗闇で爛々と光る「野生の瞳」を持つ一人の怪物だった。
「ル、ルーニー……。貴方、本当に、あの魔境で生きて……っ」
アイリスが震える声で呼びかけるが、ルーニーの冷徹な眼差しがそれを切り捨てる。
「気安く呼ぶな。今の俺は、お前たちを見限った世界の王だ。……ゴルザ、公国側はどうなっている?」
「へい。ハクザン公爵家は、例の騒動のあと、父親の公爵様が再び家督を握り、その片腕には兄のシオン様が立っております。……で、母親のエレオノーラ様は、公爵家に見切りをつけて、さっさと実家の王家へ連れ戻されたようですぜ」
ゴルザが小馬鹿にしたように笑う。
ルーニーがいなくなった後の公国は、醜い身内同士の椅子取りゲームの場と化していた。父親とシオンは保身のためにアイリスたちを「生贄」として差し出し、母親は自分だけ安全圏へ逃げ出したのだ。
「キャッハ……! 傑作だな。自分たちの椅子を守るために、王女や婚約者を魔境の狂王へ放り出すか。期待を裏切らないクズ共だ」
ルーニーはゆっくりと立ち上がり、アイリスの顎を乱暴に持ち上げた。
王女、伯爵令嬢、そしてテイラー。かつてその身分に見合う「教育」を施した彼女たちは、今や恐怖に怯えるだけの「敗戦処理の品」に過ぎない。
「……いいだろう。この『ゴミ』たちは受け取ってやる。だが、これだけで済むと思うなよ」
ルーニーは野生の瞳を輝かせ、絶望に凍りつく彼女たちを見下ろして告げた。
「ゴルザ、こいつらを地下の『再教育房』へ放り込め。……もう一度、俺の使い勝手のいい道具に仕立て直してやる。今度は、人間としての心など欠片も残さないようにな」
かつての支配者による、二度目の「教育」。
それは、公国を内部から食い破るための「最強の兵器」を作り出す、地獄の始まりだった。




