第5部第7話 交錯する野心――ハクザン公国の激震
ルーニーが「新生ハクザン国」を樹立してから、さらに1年の月日が流れた。
魔族領では、ルーニーとゴルザによる調略の毒が回り続け、幹部同士の小競り合いが日常と化していた。だが、魔王軍も腐っても最強の軍団。ルーニーの策を警戒し、容易には本陣を晒さない。
ルーニーもまた、この1年をただの略奪には使わなかった。魔族領の複雑な地形を網羅した精密な地図の作成、そして各部族の弱みを握るための徹底的な調略。
それは、嵐の前の静けさのような、濃密な「準備期間」だった。
一方、その情報は、国境を越え、峻険な山脈を越えて、ついに「ハクザン公国」へともたらされる。
「……何と言った。もう一度言え」
ハクザン公国の最高会議。重々しい沈黙を破ったのは、公爵家の現当主の声だった。
報告に参上した隠密は、冷や汗を流しながら震える声で告げる。
「はっ……。魔族領の奥地、骸の断壁を中心とした一帯に、新たな勢力が台頭しております。その名は……『新生ハクザン国』。旗印には、我が公爵家の家紋を逆さにした意匠が使われているとのこと……」
会議場に戦慄が走る。
3年前、あの惨劇を引き起こし、手紙一通で姿を消した「狂える神童」ルーニー・ハクザン。
死んだ、あるいは魔物の餌食になったと思われていた「捨てられたはずの末息子」が、あろうことか魔族の地で「王」として君臨している。
「新生……ハクザンだと? ふざけるな、あやつは一族の恥晒し、国外追放の身だぞ!」
「だが、魔族領を支配下に置いているとなれば、話は別だ。……もし彼が、魔族を率いてこの公国へ攻め寄せてきたら……」
ハクザン公国側も、この1年、内政の立て直しや近隣諸国との外交に追われていた。だが、ルーニーという「時限爆弾」が、かつてない規模の破壊兵器となって魔境で成長していた事実に、誰もが顔を青ざめさせた。
「……ルーニー。貴様、どこまで我らを愚弄すれば気が済むのだ」
かつて彼を捨て、死刑にさえしようとした国。
その国が今、かつて「ガキ」と侮った少年が作り上げた「新しい国」の噂に、震え始めていた。




