第5部 第6話 毒を撒く風――魔族領大混乱
「新生ハクザン」の建国は、魔王軍の幹部たちを激昂させた。
だが、彼らは一枚岩ではない。それぞれが領土を欲し、他者を蹴落とそうとする「欲望の塊」だった。
「キャッハ! 筋肉ダルマどもが、顔を真っ赤にして怒ってるな。……ゴルザ、準備はいいか?」
砦の執務室で、ルーニーは退屈そうに椅子に深く腰掛けた。
「へへ、抜かりありませんぜ、坊ちゃん。俺はこれでも3年間、魔族の裏も表も嗅ぎ回ってきましたからね」
ゴルザは、情報局長としての顔を不敵に歪めた。
ルーニーとゴルザが仕掛けたのは、単純だが強力な「嘘」の連鎖だった。
【工作1:疑心暗鬼の種】
ある幹部には「隣の領主が、ルーニーと内通してお前の首を狙っている」と囁き、別の幹部には「魔王が、お前の不手際を理由に領地を取り上げようとしている」という偽の書状を届けさせた。
【工作2:孤立と抱き込み】
武闘派で知られる幹部の一人を、ゴルザが意図的に孤立させる。周囲が敵だらけだと思い込まされたその幹部に、ルーニーは「協力すれば、お前を次期魔王にしてやる」という甘い毒饅頭を食わせた。
「……信じられん。あのルーニーという小童、なぜ俺の心中がこれほど分かるのだ……!」
調略された幹部は、すんなりとルーニーの軍門に下り、あろうことか「新生ハクザン」を守るための盾として動き始めた。
【結果:魔族領の内戦状態】
力こそ全てと信じてきた魔族たちにとって、この「情報戦」は未知の恐怖だった。
誰が味方で、誰が敵か。
「あいつは裏切った」「いや、あいつこそがスパイだ」
互いに牙を剥き出しにした幹部たちは、ルーニーに攻め込む前に、自分たちで殺し合いを始めてしまったのだ。
「キャッハッハ! 見ろよゴルザ。戦いの中でしか生きられない奴らが、戦う相手を間違えて自滅していく。滑稽すぎて涙が出るな!」
ルーニーの笑い声が、混乱に陥った魔族領の空に響く。
戦わずして敵を割り、その半分を味方に、半分を死体に。




