第5部 第4話 真田の再来――断壁の処刑場
「骸の断壁」の砦を包囲した魔族将軍ザルガスの三万の軍勢。
対するルーニーの三千。
ルーニーは、砦の正面から外郭、そして奥の入り口まで、すべての門を「あえて全開」にした。
「……坊ちゃん、本気ですか。これじゃあどうぞお入りくださいと言ってるようなもんだ」
ゴルザが震える声で問う。
「いいんだ。ザルガスのような猪武者は、開いている門を見れば『罠がある』と疑いながらも、その奥にある俺の首欲しさに止まれなくなる」
ルーニーの読み通り、ザルガスは疑心暗鬼に陥りながらも、先遣隊を突入させた。
だが、ここからが真田昌幸流――「三段構えの絶望」の始まりだった。
第一の罠:千鳥足の迷路
砦の内部は、昨晩のうちにルーニーの指示で「迷路」に作り替えられていた。一見広そうに見える通路が、奥に進むほど急激に狭まり、L字の曲がり角が連続する。
数千の魔族が雪崩れ込むと、曲がり角の先が見えないため、後方からの押しに抗えず、先頭集団は壁に激突。そこへ、頭上の隠し隙間から一斉に槍が突き出された。
「……一斉に殺すな。先頭の数人だけを傷つけ、『動けない負傷者』を量産しろ」
ルーニーの冷徹な命令。
死体ではなく、叫び声を上げる負傷者が通路を塞ぐ。これで三万の進軍速度は完全に「ゼロ」になった。
第二の罠:偽りの退路
「伏兵だ! 挟み撃ちにされるぞ!」
ルーニーの合図で、砦の外壁からゴルザたちが偽の鬨の声を上げる。パニックになった魔族たちは、開け放たれた門から「今来た道」を必死に逃げ出そうとした。
だが、その帰り道こそが本当の処刑場だった。
戻る通路の床には、あらかじめ大量の油が撒かれていた。
「火を放て。……ただし、出口の門だけは少し開けておけ」
退路を完全に塞ぐのではなく、「一人分だけ通れる隙間」をわざと残す。
これにより、魔族たちは整然と撤退することを忘れ、我先にとその「唯一の助かる隙間」に殺到。狭い隙間に数千人が押し寄せ、味方を踏みつけ、窒息させ、身内同士で殺し合う大混乱が発生した。
第三の罠:崩落する断壁
極め付けは、砦が位置する「骸の断壁」そのものへの細工だった。
混乱が頂点に達し、三万の重みが砦の一箇所に集中した瞬間、ルーニーが魔法で地盤の「楔」を破壊した。
「キャッハ! 仲良く地獄へ落ちろ!」
断壁の崩落。
砦の構造物と共に、逃げ場を失った数千の魔族が千尋の谷底へと真っ逆さまに突き落とされた。
生き残った後方の部隊も、足元から崩れる砦と、中から逃げ出してくる血まみれの味方の姿に戦意を完全に喪失。将軍ザルガスが叫ぶ頃には、三万の軍勢は統制を失ったただの「獲物」へと成り下がっていた。




