第5部 第2話 狂犬の帰還――再会のゴルザ
岩陰から飛び出したルーニーの剣を、紙一重でかわす影があった。
「おっと……! 相変わらず、挨拶が物騒ですな、坊ちゃん」
濁った空気の中から現れたのは、3年前と変わらぬ、しかしどこか誇らしげな笑みを浮かべた魔族のゴルザだった。魔族領内を自由に動き回れる唯一の「風来坊」が、そこに立っていた。
「……ゴルザか」
ルーニーは剣を下げず、野生の目のまま睨みつける。
「坊ちゃん、探しましたよ。もう、人間界の方はめちゃめちゃです。公爵家は崩壊寸前、おまけにあの許嫁の方々……あの方たちはもう、狂ったようになって坊ちゃんの影を追いかけてますよ。……正気の沙汰じゃありませんな」
「…………」
「どうするんですか、これから? 俺はね、坊ちゃんがいないとこの世が面白くない。だから勝手について行きますよ。ほら、後ろを見てください」
ゴルザが指し示した先には、彼に心酔し、魔族領の過酷な環境を生き抜いてきた「はぐれ魔族」や「闇の商人」たちの精鋭が揃っていた。
3年間、孤独に怯えながら戦ってきたルーニーの前に、最強の軍隊の「種」が届けられたのだ。
「ゴルザ……お前、勝手な真似を……」
「キャッハ! いいじゃないですか、坊ちゃん。この3年で、あんたの目は本物の『王』の目になった。……その目で、この薄汚い魔族領も、自分を捨てた人間界も、全部飲み込んでしまいましょう」
ルーニーの唇が、3年ぶりに不敵に吊り上がる。
怯え、飢え、孤独に戦い続けた時間は終わった。
「……面白い。ゴルザ、お前たちがそこまで言うなら、ただの『復讐』じゃ生ぬるいな」
ルーニーは剣を突き立て、集まった者たちを見据えた。
「これからは、俺がこの地の法だ。……それじゃあ、まずはこの魔族領を足掛かりに、『国取り』といこうか」
かつての「軍神ラインハルト」でも成し得なかった、人魔を統べる真の覇道。
13歳のルーニーが、再び世界を蹂躙するために動き出す。




