表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/116

第5部 第1話 境界の獣――泥と血の三年

魔族領の深部、常に毒々しい紫の霧が立ち込める「腐り果てた大峡谷」。

そこには、かつて「神童」と呼ばれた少年の面影はなかった。

13歳になったルーニー・ハクザンは、獣の皮を繋ぎ合わせた粗末な服を纏い、岩陰で低く息を殺していた。

その瞳は、もはや人間のそれではない。周囲数キロの殺気を敏感に察知し、生き残ることだけに特化した「野生の獣」の目だ。

手元にあるのは、さっき仕留めたばかりの魔物の後ろ足。

ルーニーはそれを生に近い状態で貪り食う。火を使えば煙で魔族に居場所を悟られる。この3年間、彼は「温かい食事」も「安らかな眠り」も完全に捨てた。

「……ハァ、ハァ……」

どれほど軍神の魂を持っていても、魔族領の圧倒的な「数」には勝てない。

24時間、全方位から襲い来る殺意。魔力は常に枯渇寸前まで使い果たし、体は無数の傷跡で覆われている。

夜、目をつむる間も、ナイフを握る指先は微かに震えていた。

「……なんぼ俺でも……できないことは……あるんだな……」

10歳の夜、笑いながら国を捨てた時の全能感は、この過酷な地獄がすべて削り取った。

自分がどれほど脆い存在か。戦い続けても、戦い続けても、終わりが見えない絶望。

だが、その限界の淵で、ルーニーの魔力は変質していた。

洗練された魔法ではない。泥を啜り、怨嗟を飲み込み、生きることに執着した「どす黒い生命の奔流」へと。

その時、風が「異物」の匂いを運んできた。

魔物でも魔族でもない。懐かしく、そして忌々しい「人間」の匂い。

「……追手か? いや、この匂いは……」

ルーニーは泥にまみれた剣を抜き、音もなく岩場を跳んだ。

3年間の地獄が作り上げた、最強の「野生」が牙を剥く準備を始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ