第1部 第6話 「忌み子」から「悪魔の子」へ
野盗百二十人を、わずか十数人の子供たちが壊滅させた。
その信じがたい噂は、瞬く間に辺境伯領内を駆け巡り、ついに主であるエドワード辺境伯の耳に届いた。
「……子供たちが、森の地形を利用して野盗を翻弄しただと?」
報告を受けるエドワードの背筋に、冷たいものが走った。
現場の惨状は、ただの「手柄」と呼ぶにはあまりに異様だった。統制の取れた伏兵、逃げ道を塞ぐ完璧な罠、そして敵を心理的に追い詰め自滅させる冷徹な行軍。
それは、騎士道とはかけ離れた、澱みなく効率的な「殺戮の軍略」だった。
エドワードは、屋敷の端にそびえる「黒金の塔」を見上げた。
あそこに閉じ込めたのは、顔に痣を持つ、ただの不吉な赤子だったはずだ。それがなぜ、教育も受けぬまま、これほどの知略を操る化け物へと育ったのか。
(……あれは、人間ではない。我が家の血を引く子などではない。……悪魔の子だ)
エドワードの心に宿っていた「嫌悪」は、この日を境に、明確な「殺意」へと変貌した。生かしておけば、いずれ自分さえもその知略の餌食になる。その恐怖が、父親としての情を完全に焼き尽くした。
一方、塔の最上階。
ラインハルトは、ミツナが持ち帰った「野盗撃退」の勝利報告を聞き、わずかに口角を上げていた。
「これで、父上も少しは私の価値を理解してくれるだろう。この領地を、そして我が家を守るために、この力が必要だと気づいてくれるはずだ」
ラインハルト――大谷吉継の魂は、かつて三成と分かち合った「義」を信じていた。尽くせば、結果を出せば、いつかは通じ合える。そんな、高潔な武士としての青い期待が、彼の目を曇らせていた。
父が自分を「殺すべき害獣」として見定め、刺客を差し向けようとしていることなど、知る由もなかった。




