第4部 第14話 不協和音の進軍――三つの影と一人の主
学院の演習課題「冒険者実習」。
ギルドの薄暗い酒場に、不釣り合いなほど高貴で、かつ異様な殺気を放つ一団が現れた。
「ルーニー、この私をこのような埃っぽい場所に連れてくるなんて……。でも、貴方の指示なら耐えてみせるわ。……さあ、一番難しい依頼を出しなさい!」
アイリスは、王女としてのプライドを無理やり「ルーニーへの忠誠」に変換し、空回りしていた。彼女は「強さ」を見せることでしか、自分の価値を証明できないと思い詰めている。
一行が向かったのは、狂暴な地竜が棲まう「断絶の谷」。
だが、実戦が始まると、三人の「個性(欠点)」が牙を剥いた。
【アイリス:過剰な自己顕示】
「見ていなさい、ルーニー! 私の雷が一番輝いているわ!」
アイリスは、ルーニーに良いところを見せようと、魔力を無駄に消費して大技を連発する。地竜を仕留めはしたが、周囲の地形まで破壊し、後始末を全く考えていない。王女ゆえの「加減の知らなさ」だ。
【エヴァ:暴走する妄想】
「……あ、ああ……っ。地竜の鋭い爪が、ルーニー様の喉元を掠める……それを私が身を挺して守り、血に染まった私をルーニー様が抱きかかえて……っ、はぁっ、はぁっ……!」
エヴァは戦闘中、魔物よりもルーニーの挙動を凝視し、勝手に妄想に耽って動きが止まる。肝心な場面で攻撃を外し、地竜の尻尾に弾き飛ばされて泥まみれになった。
【テイラー:機械的な効率主義】
「主様、予定より3秒遅延。エヴァ様のミスをカバーするため、私の魔力残量が2%減少しました。……不覚です」
テイラーは完璧に立ち回るが、あまりに事務的で「遊び」がない。ルーニーが求めているのは「戦況の変化への対応」だが、彼女は計算外の事態(エヴァの暴走など)に直面すると、冷酷に仲間を切り捨てようとする冷たさを見せる。
「……やめろ。見ていられん」
ルーニーの一言で、戦場に冷気が走った。
地竜の死骸を前に、泥にまみれたエヴァ、魔力切れで膝をつくアイリス、そして冷徹に報告を続けるテイラー。
「アイリス、お前はただの目立ちたがり屋だ。エヴァ、お前は戦場に何をしに来た? テイラー、お前は仲間を『道具』としてすら管理できていない」
ルーニーは、怯える三人の前で、地竜の心臓をナイフで抉り出した。
「稼いだ金額は、そのままお前たちの『価値』だ。……だが、今日の働きでは、お前たちは私の『許嫁』ではなく、ただの『お荷物』だ」
「……っ!!」
アイリスは屈辱に、エヴァは絶望的な快感に、テイラーは自己嫌悪に。
三人はそれぞれ異なる地獄に叩き落とされた。
だが、その瞳には共通の光があった。――「次は、もっと完璧に主様を満足させなければ」という、逃げ場のない狂信だ。
「……帰るぞ。宿屋で、今日の『収支報告(お仕置き)』だ」
ルーニーの後ろ姿を追いかける三人の足取りは、重く、そしてどこか急いでいた。




