第4部 第12話 情報局長の陥落――暴かれた秘事
アイリスとエヴァが部屋を辞した後。
公爵家情報局長――テイラーは、無言で主君の前に跪いた。
「……主様。後始末は、私にお任せください」
「ああ。頼む、テイラー」
ルーニーが寝室へ下がると、テイラーは一人、先ほどまで「教育」が行われていた空間に残された。
国家の喉元を握る冷徹な「情報の番人」としての仮面が、音を立てて剥がれ落ちていく。
「……あ、ぁ……っ」
彼女は震える手で眼鏡を外し、自身の胸元を掻きむしるように抱きしめた。
脳裏に焼き付いて離れないのは、アイリスを叩き据えたルーニーの、あの無機質で圧倒的な「支配者」の目。
(……素晴らしい。なんと、美しい暴力。……アイリス殿下になりたいわけではない。私は、ただ……あの深淵に、すべてを暴き出されたい……!)
テイラーは椅子に縋り付き、身をよじらせた。
情報のプロとして、あらゆる人間の秘密を暴いてきた彼女が、今、主君の魔力の残り香に当てられ、自身の「もっとも醜い欲望」を自ら暴き立てている。
激しい呼吸。乱れる制服。彼女の理性が、熱い魔力の奔流に飲み込まれていく。
その時だった。
「――意外だな。お前がこれほどまでに『熱い』女だったとは」
氷点下の声。
寝室へ戻ったはずのルーニーが、扉の影から、冷徹な瞳で彼女を見下ろしていた。
「……っ!? し、主様……っ!」
テイラーは、跳ねるようにその場に立ち上がろうとした。だが、膝の力が抜け、無様に床に這いつくばる。眼鏡は床に落ち、髪は乱れ、その顔は情欲と恐怖で塗り潰されていた。
情報局長。他人の秘密を握るのが仕事の彼女が、自身の最大かつ、もっとも破廉恥な秘密を、もっとも知られてはいけない相手に、完膚なきまでに握られた瞬間だった。
「あ……あぅ……っ。……殺して、ください。……あるいは、記憶を……」
「殺す? 冗談を言うな。……これほどまでに『忠実』な犬を、手放す理由がない」
ルーニーはゆっくりと歩み寄り、這いつくばるテイラーの頭を、踏みつけるようにして固定した。
靴の裏から伝わる主君の重み。テイラーは屈辱に震えながらも、脊髄を駆け上がるような強烈な歓喜に、喉を鳴らした。
「テイラー。お前が抱いているその『毒』、すべて私に捧げろ。……お前の理性が千切れるまで、存分に働かせてやる」
「……は、はい……。喜んで……。すべてを、貴方様に……」
情報局長の仮面は、今、完全に砕け散った。
ルーニーの足元で、彼女はただの「狂信的な信者」へと成り果て、その瞳には暗い悦びが満ちていた。




