第4部 第11話 連帯の責任――共鳴する汚辱
学院の放課後、人目を避けたルーニーの私室には、重苦しい沈黙が流れていた。
正面には、顔を真っ赤にして俯くアイリスと、本を抱えて震えるエヴァ。
「……私の名を使い、あのような醜い言い争いをしたそうだな」
ルーニーの声は、静かだが逃げ場のない冷徹さを孕んでいた。
アイリスは唇を噛みしめる。王女でありながら、エヴァの挑発に乗り、あまつさえ「制服を洗った(お漏らしの隠蔽)」ことを示唆してしまった。その失態をルーニーに知られたことが、何よりも恐ろしかった。
「二人とも『連帯責任』だ。……だが、罰の内容は変えてやる」
ルーニーが立ち上がり、まずエヴァの前に立った。
「エヴァ・ヴァレンタイン。お前には、その『想像力』を増幅させる罰を与える」
ルーニーは黒い布を取り出すと、エヴァの瞳を遮るように目隠しを施した。
視界を奪われ、聴覚が異常に研ぎ澄まされたエヴァは、暗闇の中で激しく心臓を波打たせる。
「アイリス、お前はこっちへ来い」
ルーニーはアイリスを椅子へと促した。
アイリスは、これから何が始まるのかを悟り、屈辱で全身を震わせながらも、抗うこともできずに言われるがまま身を投げ出した。
「エヴァ。これから起きることを、その頭の中で克明に描写してみせろ。……アイリス、声を出すことは許さない。堪えてみせろ」
――乾いた、鋭い打撃音が室内に響いた。
「……っ!! ん、ぅ……っ!」
アイリスの抑え込んだ悲鳴。そして、肉と手がぶつかる「生々しい音」。
目隠しをされたエヴァにとって、それは視覚情報がない分、音から得られる情報が脳内で何倍にも膨れ上がった。
(……あああ、今の音! アイリス様の、あの高潔なお尻が、ルーニー様の手で……! 真っ赤に、熱く、叩き据えられている……!)
エヴァは、見えないからこそ「見て」いた。
叩かれるたびに、アイリスがどのような表情で、どのような声を漏らしているのか。その残酷なまでの音の連撃が、エヴァの妄想を暴走させ、彼女の膝をガクガクと震わせる。
アイリスは、隣でエヴァが自分の「屈辱の音」を聞いているという事実に、気が狂いそうになっていた。
演習場で敗北した時以上の恥。自分が今、どのような無様な姿で10歳の少年に躾けられているのか。それをエヴァという「他人」に知られ、脳内で解釈されていることが、アイリスの自尊心をズタズタに引き裂いていく。
「……終わりだ」
十数回の打撃が止まり、室内には三人の荒い吐息だけが残った。
ルーニーは、涙を流して崩れ落ちるアイリスの髪を冷たく撫で、目隠しを外されたエヴァの、放心したような瞳を見据えた。
「二人とも、分かったか。私の前で、醜いマウントの取り合いなど二度と許さない」
アイリスは、初めて味わう「物理的な痛みによる調教」の余韻に。エヴァは「音」による精神的な快楽に。
二人はもはや反論する力すらなく、ただ、自分たちを支配する少年の足元に、忠実な駒として跪くしかなかった。




