表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/121

第1部 第5話 「初陣」という名の学問

「いいか。戦とは、剣を交える前に決まるものだ」

黒金の塔の最上階、ラインハルトは石床に描いた地図の「一点」を指差した。

西の村々を狙う野盗、その数はおよそ百二十。対するは、ミツナ率いる十数人の子供たちだ。

「子供だと思って侮るはずだ。その油断こそが、奴らの墓穴となる」

作戦の第一段階は、「誘引」。

村の入り口で怯える「女子供」を演じ、野盗たちを一人、また一人と隊列から引き離していく。

「なんだ、ガキか。宝のありかを吐け!」

下卑た笑いを浮かべて追ってくる野盗を、子供たちは今まで調べ上げた「道幅」と「地形」を駆使して、迷路のような裏路地、そして深い森へと誘い込んでいく。

第二段階は、「地の利」による各個撃破。

子供たちが数ヶ月かけて調べ上げた森は、彼らにとっては庭も同然だ。

「こっちだよ!」

霧の深い森の中、子供たちの声に導かれるまま踏み込んだ野盗たちは、ラインハルトが授けた「仕掛けトラップ」の餌食となる。

落とし穴、跳ね上げの槍、そして樹上からの奇襲。

「ぎゃああっ! どこだ、どこにいやがる!」

野盗には軍略などない。仲間が一人、また一人と消えていく異様な状況に、彼らの足並みは乱れ始めた。

「軍略なき者は、未知の事態に直面したとき、容易に『恐怖』に支配される」

ラインハルトの教え通りだった。

第三段階、「崩壊」。

森の奥深くで、倒れゆく仲間の姿を目にした野盗たちの間に、絶望が広がった。

全体の三割――およそ四十人が沈んだその時、戦いの天秤は完全に傾いた。

「化け物だ! この森には化け物が住んでいる!」

何が起きているのか理解できない恐怖が、野盗たちの闘争心を根こそぎ奪い去る。

彼らはもはや略奪者ではなく、ただ逃げ惑う家畜へと成り下がった。

森の影からその様子を冷徹に見つめるミツナは、塔にいるラインハルトの知略に、改めて身震いした。

「……あんたの勝ちだ、ラインハルト。戦は、もう終わってる」

黒金の塔の窓から、ラインハルトは夜の森を静かに見つめていた。

これは初陣ではない。彼にとっては、自らの理論を証明するための、ただの「実践」に過ぎなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ