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第4部 第4話  毒母の執着――砕かれた人形の夢

王室からの「婚約検討」の報せは、ハクザン公爵邸に雷鳴の如く響き渡った。

学院での平穏な(?)生活とは裏腹に、公爵邸の空気は一変していた。

「ルーニーに……女ができる……?」

公爵邸の奥、豪華な私室の鏡の前で、エレオノーラは呆然と呟いた。

かつてはラインハルトを裏切り、シオンと通じた「裏切りの女」だった彼女も、今やルーニーという幼き魔王の「慈愛(偽り)」なしでは呼吸もままならないほど、彼に心酔しきっている。

「ありえないわ。そんなこと、絶対に許さない」

彼女の瞳から、光が消えた。

ルーニーが8歳の時に自分に与えてくれた「偽りの許し」と「抱擁」。それこそが彼女の生きるすべてであり、そこへ他人の、それも王女などという高貴な泥棒が入り込む隙間など、あってはならないのだ。

「シオン! シオン、どこにいるの!」

半狂乱で叫ぶエレオノーラの前に、影からシオンが姿を現した。

彼はルーニーの忠実なしもべだが、エレオノーラにとっては今もなお「共犯者」としての顔を持っている。

「エレオノーラ様、何事でしょうか」

「聞いたでしょう! ルーニーが王女を娶るなんて話! 貴方も、あの時誓ったはずよ。ルーニーを、私たちのハクザン家を『守る』と。なのに……あの子を他の女に奪わせるつもり!?」

エレオノーラはシオンの胸ぐらを掴み、血の出るような力で揺さぶる。

その爪はシオンの肌に食い込むが、彼は眉一つ動かさない。

「……王女殿下との話は、主様が王子に仕掛けた『遊戯』の結果に過ぎません。ですが、主様の所有権を主張する者が増えることは、私にとっても好ましくはない」

「そうでしょう!? ああ、やっぱり貴方だけは分かってくれる。……なら、壊しましょう。あの王女も、ルーニーを誘惑する学院のメス共も。……あの子の隣にいていいのは、私だけなのよ」

エレオノーラは、もはや「母親」の顔をしていなかった。

それは、自分を地獄から救い上げた光を、永遠に手放さないと誓った「狂信者」の顔だった。

翌日、学院のルーニーのもとに、公爵邸から一通の手紙が届く。

そこには、エレオノーラの香水の香りと共に、ただ一行。

『ルーニー、早く帰ってきて。貴方の好きな、とびきり甘いお菓子を作って待っているから』

手紙を握りつぶし、ルーニーは深い溜息をついた。

テイラーが横から冷徹に報告を入れる。

「主様。エレオノーラ様が、王宮へ送る予定だった献上品のリストを独断で書き換えましたわ。中身は……『呪詛』を込めた魔道具です」

「……あの女、駒としての分を弁えろと言ったはずだが。愛が過ぎると、毒になるということか」

ルーニーは冷たく笑うが、その瞳には「想定外の狂気」をどう処理するかという、新たな愉悦が宿っていた。

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