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第4部 第1話  学び舎の魔王――静寂の洗礼

第3部の終結から2年。ハクザン公爵家は、かつてないほどの鉄の結束と軍事力を誇る組織へと変貌を遂げていた。

形式上の当主はエレオノーラだが、実権を握るのは10歳になったルーニーだ。

筆頭重臣として政務を司るシオン。

「公爵家将軍」の地位に就き、魔族の力で私兵団を最強の軍勢に育て上げたゴルザ。

そして、新しく組織された情報局の局長として、国内外の耳目を掌握するテイラー。

ルーニーは、この三人を中枢に据え、学院入学という「次なる盤面」へと足を進めた。

王立魔法学院の入学試験。

ルーニーの結果は、全入学者の中で「3位」だった。

1位は、この国の第一王子。

(……王家の顔を立てるのも、退屈な仕事だ)

ルーニーは魔力測定の数値を意図的に操作し、筆記でも適度に誤答を混ぜた。目立ちすぎるのは策ではない。だが、その「3位」という数字さえ、彼にとっては計算された隠れ蓑に過ぎなかった。

入学式を終え、中庭を一人で歩いていた時のことだ。

「おいおい、お前がハクザン家の『神童』か? 3位なんて中途半端な成績で、随分と澄ました顔をしてるじゃないか」

馴れ馴れしく肩に手を置いてきたのは、上位貴族の嫡男と思われる上級生だった。取り巻きを引き連れ、幼いルーニーを格好の玩具にしようと、下卑た笑いを浮かべている。

「……手を退けていただけますか。服が汚れる」

「あぁん? 生意気なんだよ、ガキが。父上が死んで、女の当主に甘やかされて育ったから、礼儀を知らないようだな!」

上級生の言葉がエスカレートし、ラインハルトやエレオノーラを侮辱する言葉が並び始めた。

ルーニーは無表情のまま、ずっと耐えていた。いや、正確には「どのタイミングで、どの程度の『掃除』をするか」を冷徹に選定していた。

暴言が最高潮に達し、男がルーニーの頬を叩こうと手を振り上げた瞬間。

――閃光さえ、見えなかった。

「……あ、ぎっ……?」

男が異変に気づいたのは、自分の右腕が地面に落ち、遅れて激痛が脳を焼いた時だった。

ルーニーの手には、いつの間にかシオンから贈られた漆黒の短剣が握られていた。切断断面は高熱の魔力で焼かれ、血さえも一滴も流れないほどに鮮やかだった。

「ひ、ひいいいっ! 腕が! 俺の腕がぁぁ!!」

絶叫する男。すぐに学院の医療班が駆けつけ、最新の治癒魔法によって切り落とされた腕は即座に接合された。命に別状はなく、後遺症も残らない。

だが、医療班が処置を終えた時、彼らは見てしまった。

騒乱の中心で、一切の動揺も見せず、ただ静かに、そして深く……。

「はは、ははは……」

と、肩を揺らして笑っている10歳の少年の姿を。

それは慈悲でも怒りでもない。

「ゴミを片付けた」という清々しさと、これから始まる学院生活での「玩具」を見つけた喜びが混ざり合った、純粋な魔王の笑いだった。

周囲の生徒たちは、接合された腕の痛みよりも、その少年の「笑い声」に、魂が凍りつくような恐怖を覚えた。

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