第1部 第4話 タイトル:「勉強」という名の軍事演習
「黒金の塔」に集う子供たちに、ラインハルトは今日も冷徹に、かつ情熱を込めて説く。
彼が教えるのは、読み書きや算術といった「当たり前」の基礎だけではない。
「いいか、文字や計算を知らぬ者は、一生誰かに騙され、搾取される。商売も職人の仕事も、その根底にあるのは『情報を読み解く力』だ」
ラインハルトは塔の床にチョークで図形を描き、子供たちを見渡した。
「軍略とは戦場だけの物ではない。どの土地で何が不足し、どの道を通り、どのタイミングで売れば最大の利益が出るか。商売を軍略的に組み立てれば、お前たちは一生食いっぱぐれることはない。職人も同じだ。技術をどう『戦略的』に配置するかで、その価値は決まる」
子供たちは、自分たちの未来に直結するその言葉を、飢えた獣のように吸収していった。
そして、その教えは即座に「実践的な勉強という名の工作活動」へと移る。
「宿題」として命じられたのは、辺境伯領内の地形、兵士の配置、そして流通の動きの徹底的な調査だ。
「北の関所の兵が交代する時間を調べろ。それは警備の隙を知るためであり、同時に商隊が滞留する理由を知るためでもある」
子供たちは工作員のごとく領内を駆け巡り、情報を持ち帰った。
兵士の数、軍備の質、道の幅……。集まったデータは、ラインハルトの手によって精緻な「辺境伯領戦略図」へと統合されていく。
そんなある夜、ミツナが深刻な顔で塔に滑り込んできた。
「ラインハルト! 勉強どころじゃねえ。……大規模な野盗の一団が、この辺境を狙って動き出した。数は百を超えている。辺境伯の兵が動く前に、村が焼かれちまうぞ!」
ラインハルトの目が、鋭く細められる。
「ふむ。騙されぬための知恵、生きるための軍略……。お前たちが学んできたことが、どれほどの価値を持つか。絶好の『実力テスト』だな」
ラインハルトは、子供たちが調べ上げた地図の一点を指差した。
塔の中に幽閉された「忌み子」が、自ら育てた小さな軍略家たちと共に、初めて外界の理不尽に牙を剥こうとしていた。




