第3部 第13話 魂の共鳴――咆哮する魔族
王都から離れた辺境の森。かつてラインハルトと死闘を演じたこともあるその場所に、魔族ゴルザはいた。
薄汚れた岩場に腰掛け、酒を煽るその姿に、かつての覇気はない。
「……何の用だ、人間の子供。死にたくなければ去れ」
背後に立ったルーニーを、ゴルザは見向きもせずに一蹴する。だが、その足元から這い上がってきた「氷のような、しかし懐かしい殺気」に、ゴルザの背筋が跳ねた。
「相変わらずだな、ゴルザ。酒の味も分からぬまま、そうして腐っていくのか?」
「……なっ……!?」
ゴルザが振り返った瞬間、8歳のルーニーから放たれた漆黒の魔圧が、森の木々を一斉に薙ぎ倒した。
かつてのラインハルトが持っていた、どこまでも澄み渡り、かつ強靭な魔力。それが、今のルーニーからはさらに禍々しく、深淵のような重圧となって押し寄せてくる。
「その声……その言葉……貴様、何者だ! 亡き友の面影を汚すなら、この場で握り潰してやる!」
怒り狂うゴルザが、巨大な拳を振り下ろす。
だが、ルーニーは指先一つ動かさず、瞬時に展開した【高密度障壁】でその一撃を完璧に受け止めた。衝撃波で大地が裂けるが、ルーニーは微動だにしない。
「『背中を預けるのは、地獄に落ちてからにしよう』……そう言ったのは、お前だったな」
ゴルザの動きが、完全に止まった。
それは、壊死竜との決戦前夜、ラインハルトとゴルザの二人きりの間で交わされた、記録にも残っていない、魂の約束だった。
「……信じられん。ありえん……。お前は死んだはずだ。私は、この目で見たんだぞ!」
「ああ、一度は死んだ。だが、見ての通り戻ってきた。……醜く裏切られたままで終わる男ではないと、知っているだろう?」
ルーニーは冷たく微笑み、一歩ずつゴルザへ歩み寄る。
8歳の子供の影が、月光に照らされて巨大な戦神の形に伸びていく。
「ゴルザ。シオンは私の『影』として地獄へ落とした。エレオノーラも私の手の中にある。……お前はどうする。かつての友を憐れんで一生を終えるか。それとも、私の『牙』として、再び世界を蹂躙するか」
「は……はは……はははは!!」
ゴルザは天を仰ぎ、咆哮した。それは恐怖ではなく、歓喜。
自分を絶望させた「人間の醜さ」を、この目の前の怪物がすべて踏み潰してくれるという確信。
「……いいだろう。この命、再び貴様に預ける。たとえその中身が、どれほど冷酷な『魔王』に成り果てていようともな!」
大男のゴルザが、8歳のルーニーの前に跪き、忠誠を誓う。
これで、影、駒、そして最強の矛が揃った。
「立て、ゴルザ。……私の遊戯は、まだ始まったばかりだ」
闇の中で、ルーニーの瞳が紅く輝いた。




