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第3部 第11話  神童降臨――社交界の捕食者

エレオノーラとシオンを支配下に置いてから、さらに2年の月日が流れた。

8歳になったルーニーは、公爵邸の深奥で人知れず魔力を練り上げ続けていた。その密度は、かつてのラインハルトが全盛期に持っていたものを遥かに凌駕し、今や彼が呼吸をするだけで周囲の空気が微かに震えるほど、強大かつ禍々しいものへと昇華されていた。

「準備はいいな、二人とも」

鏡の前で、純白の礼装に身を包んだルーニーが静かに問いかける。

背後には、完璧な淑女の微笑みを貼り付けたエレオノーラと、影のように控える冷徹な筆頭家臣シオン。二人とも、この「小さな主」の恐ろしさを誰よりも理解し、その支配に身を委ねていた。

「ええ、ルーニー。……貴方の望む通りに」

「御心のままに、あるじよ」

今日、王都で行われる大夜会。それは「英雄ラインハルトの息子」が初めて公式の場に姿を現す、社交界デビューの日だった。

会場である王宮の大広間にルーニーが足を踏み入れた瞬間、喧騒は潮が引くように静まり返った。

人々が目にしたのは、天使のような愛らしい容姿と、それとは正反対の、周囲を威圧するほどに洗練された立ち振る舞い。

「あれが……ハクザン公の忘れ形見……」

「なんと神々しい。まるで聖者の再来だ」

貴族たちがそんな称賛を口にする中、ルーニーは内側で冷笑を浮かべていた。

彼にとって、この場に集まった者たちは、ラインハルト亡き後にハクザン家の利権を貪ろうとした「ハイエナ」に過ぎない。

(……聖者? 違うな。貴様らを一人残らず地獄へ引きずり込む、死神だ)

ルーニーはあえて、会場全体の気配を察知する魔法を放つ。

さらに、隠し持っていた膨大な魔力を「威圧」として、特定の腐敗貴族たちだけに針のように突き刺した。

「……う、うわっ!?」

「な、なんだ、今の……寒気は……」

ルーニーと目が合っただけで、数人の大人が膝を震わせ、ワイングラスを落とした。

誰もが、この8歳の少年から発せられる「格の違い」に、本能的な恐怖を覚える。

ルーニーは優雅に会釈し、最もハクザン家を蔑ろにしていた有力伯爵の前で立ち止まった。

「お初にお目にかかります、伯爵。亡き父から、貴方の『功績』については詳しく伺っておりますよ。……これから、ゆっくりとその対価をお支払いしますね」

天使のような微笑みで放たれたその言葉に、伯爵は顔を真っ青にして絶句した。

隣に立つエレオノーラは慈愛に満ちた母の顔を崩さず、シオンは無表情に獲物の死を見届ける処刑人のように控えている。

社交界は、この日を境に悟ることになる。

ハクザン公爵家は終わっていない。むしろ、かつてのラインハルト以上に美しく、残酷な「怪物」が誕生したのだと。

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