第3部 第10話 義星の再会――甘き支配の抱擁
シオンを屈服させたその足で、ルーニーは母エレオノーラの寝室を訪れた。
深夜、無言で現れた6歳の息子。その瞳が、いつもの無垢な子供のものではないことに、エレオノーラは本能的な戦慄を覚えた。
「ルーニー……? こんな時間に、どうしたの?」
「……お久しぶりです、エレオノーラ。いや、私の愛した妻よ」
その声は、6歳の少年の喉を通しながらも、紛れもなくあのラインハルト・ハクザンの、深く落ち着いた響きを帯びていた。
エレオノーラは椅子から崩れ落ちそうになり、戦慄に身を震わせる。
「……何を、言っているの……?」
「私は壊死竜と共に死んだが、貴女が宿したこの命に、魂を滑り込ませた。……三度目の人生を、私は貴女の息子として歩んでいる」
信じられるはずがない。しかし、ルーニーが語り出したのは、二人しか知らない睦み言、そしてラインハルトが最期に彼女に贈り、共に墓場へ持っていったはずの誓いの言葉だった。
その瞬間、エレオノーラを襲ったのは、逃げ場のない絶望だった。
もしこの子がラインハルトの生まれ変わりなら、彼はすべてを知っている。
自分が孤独に負け、あろうことか彼の部下であったシオンと肌を重ねていた、その醜い背徳の一部始終を。
「ああ……ああああ!!」
彼女は顔を覆い、その場に泣き崩れた。
最愛の夫に、最も見られたくなかった姿を、2年もの間「息子」という特等席から観察されていたのだ。
「……殺して。お願い、ルーニー……私を殺して! 貴方を裏切った私に、生きていく価値なんてないわ!!」
狂ったように叫び、自らを呪うエレオノーラ。
だが、ルーニーは小さな歩みで近づくと、震えるエレオノーラをそっと抱き寄せた。
その手つきは、かつてのラインハルトがそうしたように、どこまでも優しく、温かい。
「いいんだ、エレオノーラ。責めはしないよ。……君を独りにした、私の責任だ。寂しかっただろう? 辛かっただろう? ……もう自分を責めなくていい。私は、君のすべてを許す。愛しているよ」
「ライン……ハルト様……っ、あああぁ……!!」
エレオノーラは息子の小さな胸に顔を埋め、赦しを乞うように、救いを得た子供のように泣きじゃくった。
夫は許してくれた。この温もりは、あのラインハルト様そのものだと信じて。
だが。
彼女を抱くルーニーの瞳には、涙の一滴も、情愛の欠片も宿っていなかった。
冷徹な「魔王」の瞳が、暗闇の中で静かに光っている。
(……そうだ、エレオノーラ。泣いて、私に縋るがいい。君は今、自分の意志で私に魂を差し出した。一生消えない罪悪感という鎖で、君を縛り上げよう)
彼にとって、この優しい言葉も、温かい抱擁も、すべてはエレオノーラという名の最高級の「駒」を、二度と損なわないよう修復し、完璧に制御するための工程に過ぎなかった。
心が壊れたルーニーにとって、かつての愛は、支配をより強固にするための「道具」へと成り下がっていた。
「これは、二人だけの秘密だ。……さあ、顔を上げなさい、エレオノーラ。これからは、私と君で、この国を美しく整えていくんだ」
月明かりの下、母を抱く6歳の少年の唇に、微かな、しかし残酷な笑みが浮かんだ。




