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第3部 第6話  亡き主の贈り物――希望の胎動

ラインハルトの国葬が終わり、王都から喧騒が消えた。

公爵邸の寝室で、エレオノーラは窓の外を眺めたまま、何日も動けずにいた。食事も喉を通らず、肌は青白く、その瞳からは生気が失われている。

「……ラインハルト様。貴方のいない世界は、こんなにも寂しいのですね」

鏡に映る自分の姿は、まるで幽霊のようだった。

シオンやラーゼンが何度も扉を叩き、復興の進捗を報告しに来るが、今の彼女にはそれに応える気力すら残っていない。

だが、その時だった。

「……っ!?」

不意に、下腹部の奥底で「トクン」と、小さな、しかし力強い衝撃が走った。

それは単なる体の不調ではない。今まで感じたことのない、生命の確かな主張。

「この感覚……まさか……」

エレオノーラは震える手で、自分の腹部を愛おしむように撫でた。

ラインハルトと結ばれた、あの情熱的な夜。その実りが、今、絶望の淵にいた彼女に「生きろ」と呼びかけている。

「……ラインハルト様が、私に遺してくださったのね。一人で寂しくないように、この子を……」

エレオノーラの瞳に、涙が溢れ出した。

だが、それはあの日とは違う、未来への光を宿した涙だった。

彼女は、自分の中に宿ったこの命が「ラインハルトの忘れ形見」であると確信した。

(ラインハルト様……貴方はもういないけれど。貴方の血を引くこの子を、私は命に代えても守り抜きます。貴方が愛したこの国を、この子が継げるその日まで……)

彼女は、自分のお腹の中にいるのが「夫の魂そのもの」だとは露ほども思っていない。

ただ、愛した男が最後に遺してくれた「形見」として、この小さな命を神聖視し、守り抜く決意を固めたのだ。

「シオン! ラーゼン! 入りなさい!」

彼女の凛とした声が廊下に響き渡った。驚いて入室した二人の前で、エレオノーラは真っ直ぐに背筋を伸ばして立っていた。

「私はもう大丈夫です。……ラインハルト様が、私に希望を遺してくださいました。……すぐに医師を呼びなさい。私は、この子と共に歩みます」

「殿下……! もしや、御子を!?」

ラーゼンは感極まり、その場に膝をついた。

誰も知らない。

エレオノーラが「形見」として慈しむその小さな命の正体が、前世と今世を駆け抜けた「天才軍略家」の魂そのものであることを。

そして、胎内のラインハルト自身もまた、母となったエレオノーラの温もりを感じながら、言葉にならぬ想いを抱いて静かに眠りについていた。

「……愛しています、ラインハルト様。貴方の分まで、この子を愛します」

エレオノーラは窓の外、ハクザンの空を見つめ、静かに微笑んだ。

それは、一人の女が「母」へと変わり、国を導く「公爵夫人」として再起した瞬間だった。

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