第3部 第4話 義星の極光――痣の真実
「グオオオオオン!!」
壊死竜の放つ、生命を腐食させる黒い息吹がラインハルトを飲み込んだ。
魔将ザルガスは勝利を確信し、高らかに笑う。「死ね! 痣持ちの公爵よ! その汚らわしい魂ごと消え失せるがいい!」
しかし、黒煙の中から現れたのは、倒れ伏した死体ではなかった。
ラインハルトの右顔の痣が、顔全体、そして首筋を伝って全身へと広がり、「深紅の幾何学模様」となって発光していたのだ。
彼の周囲だけは、壊死竜の呪いが霧散し、清浄な空気が保たれている。
「……これが、この痣の本当の意味か」
ラインハルトの脳裏に、この世界の記憶ではない、宇宙の深淵に触れるような知識が流れ込む。この痣は呪いではない。魔族の始祖さえも封じたとされる【聖痕】――負のエネルギーを喰らい、己の糧に変える、究極の対魔族兵器だったのだ。
「……私の命、まだくれてやるわけにはいかない。王都で待つ妻に、笑顔で見せられる体で帰らねばならんからな!」
ラインハルトが踏み込む。その速度は、もはや人の目では追えない。
一歩ごとに大地が爆ぜ、壊死竜の巨体が、ラインハルトの放つ圧倒的な「圧」に押されて後退する。
「な、なんだあの輝きは……!? 壊死竜が、怯えているというのか!?」
ザルガスの余裕が驚愕に変わる。
ラインハルトは高く跳躍し、漆黒のオーラを纏った刀を正眼に構えた。
「前世の私は、病に伏し、友の敗北を看取ることしかできなかった。……だが今世の私は、この腕で勝利を掴み取る!!」
奥義・「義星一閃」
紅蓮の光を帯びた一太刀が、壊死竜の巨大な首を、バターを斬るかのように容易く断ち切った。
崩れ落ちる山の如き巨体。呪いの根源を断たれた三万の魔族軍は、その衝撃波だけで半分が消し飛び、残った者たちも恐怖に狂って潰走を始めた。
「ば、馬鹿な……伝説の壊死竜を、たった一撃で……」
ザルガスが逃げようとするが、その背後には、冷徹な瞳をしたラインハルトが、既に音もなく立っていた。
「……逃がすなと言ったはずだ、シオン、ラーゼン」
ラインハルトの合図とともに、我に返った八千の精鋭たちが、壊走する敵を包囲する。
しかし、戦いを終えたラインハルトの全身からは、力が抜け落ちようとしていた。痣の力を使い果たした代償は大きく、彼の視界は急速に暗転していく。
「……約束、守ったぞ……エレオノーラ……」
崩れ落ちるラインハルトを、シオンとラーゼンが叫びながら駆け寄って支えた。
戦場に、勝利の歓喜と、主君を案じる悲痛な叫びが交錯する。




