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第3部 第3話  義星、燃ゆ――死線を超えて

北方の「鉄錆平原」。

八千のハクザン・王都混成軍の前に、地平線を真っ黒に染める三万の魔族軍が展開していた。

その中心で、巨大な漆黒の騎獣に跨る魔将ザルガスが、嘲笑を浮かべて咆哮する。

「ハクザン公爵ラインハルト! 貴様の浅知恵など、我が魔力の前では無力よ! 出でよ、古の盟約に従いし闇の獣!」

ザルガスが掲げた杖から、空を裂くような黒い雷が放たれた。直後、大地が割れ、魔族軍の背後から山のような巨体を持つ【壊死竜えしりゅう】が這い出してきた。

その存在自体が周囲の生命を奪う呪いの塊。魔族軍の真の「隠し札」は、この戦略兵器級の魔獣であった。

「な、なんだ……あんなもの、剣も魔法も通用しないぞ!」

「逃げろ! 呪いに飲まれる!」

人間軍の陣形が、その圧倒的な威圧感だけで崩壊し始める。

シオンやラーゼンですら、死の恐怖に体が硬直していた。

その絶望の静寂を、ラインハルトの冷徹な声が切り裂いた。

「……シオン、ラーゼン。兵を下げろ。ここから先は、私の『領域』だ」

「何を仰るのですか、ラインハルト様! お一人で行かせるわけには……!」

「下がれと言っている。……あの竜の呪い、私の右顔にあるこの『痣』と同じ波長を感じる。……奴を倒せるのは、同じ闇を抱える私だけだ」

ラインハルトは馬を降り、一人、悠然と壊死竜に向かって歩き出した。

彼の右顔の痣が、今まで見たこともないほど深紅に脈動し、周囲に漆黒のオーラを放ち始める。

「……前世では、病に侵され、友のために死地を選んだ。だが今世では、愛する妻と、私を信じる民のためにこの命を賭ける。……悪くない最期だ」

ラインハルトは自嘲気味に、しかし清々しく笑った。

彼は知っていた。自らの痣に宿る未知の魔力を全開放すれば、壊死竜を道連れにできる。だが、それは自らの命をも燃やし尽くす禁忌の手段。

「ザルガスよ。……お前が連れてきたその獣と共に、地獄の先まで付き合ってやろう。……来るがいい!」

ラインハルトが刀を抜き放った瞬間、彼の痣から溢れ出た闇が天を突き、壊死竜の呪いと激突した。

その凄まじい衝撃波に、三万の魔族軍さえもがたじろぐ。

「……ラインハルト様――!!」

エレオノーラに贈った「三日で戻る」という約束。

それを守るため、男は今、自らの魂を炎に変えて、絶望の巨獣へと肉薄する。

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