第2部 第13話 タイトル:深紅の情夜――王女の開花
華やかな結婚儀式が終わり、王都がまだ祝祭の喧騒に包まれる中、城の最上階にある新婚の褥は、静寂と蜜のような緊張感に満ちていた。
「……ラインハルト様」
純白の礼装を解き、薄衣を纏ったエレオノーラは、月光に照らされた夫を見つめた。
戦場では鬼神の如き覇気を放ち、政では冷徹な知略を巡らせる男。だが今、目の前にいるラインハルトの瞳には、熱を帯びた深い慈しみが宿っている。
ラインハルトは静かに彼女の肩に手を置いた。痣のある右側を隠そうともせず、ありのままの自分を晒し、彼女を抱き寄せる。
「……怖くはないか? 私は、これほどまでに醜い男だ」
「いいえ。……この痣こそが、貴方が戦い、私を救い抜いてくれた勲章です。……私を、貴方の色に染めて……」
エレオノーラは自ら彼の首に腕を回した。
その瞬間、ラインハルトの内に眠る「男」の情熱が溢れ出した。彼は彼女を押し抱き、情熱的な口づけで彼女の言葉を塞いだ。
初めて触れられる、男の逞しい指先。そして、戦場を駆けてきた強靭な肉体の鼓動。
エレオノーラにとって、それは未知の衝撃だった。ラインハルトの愛撫は、武士の如く丁寧でありながら、時折、独占欲を剥き出しにした獣のような激しさを孕んでいた。
「あ……っ、ラインハルト……さま……!」
初めて経験する鮮烈な快楽に、エレオノーラの背中が弓なりに跳ねる。
清廉な王女として育てられ、常に感情を押し殺してきた彼女の中で、何かが音を立てて壊れた。
熱い吐息が漏れ、彼女は恥じらいさえも忘れ、夫の名を叫び、何度も彼を求めた。
ラインハルトに抱かれるたびに、彼女の心はハクザンの深い霧の中に溶けていくような感覚に陥る。
優しく、しかし有無を言わせぬ力強さで突き動かされる感覚に、彼女は我を忘れ、狂ったように喜びを露わにした。
「もっと……、もっと私を……壊して……!」
その夜、エレオノーラは知った。
冷徹な軍略家である夫が、夜の帳の中ではこれほどまでに情熱的で、恐ろしいほどの愛の深さを持っていることを。
彼女は、その力強い腕の中に閉じ込められ、自分という存在が彼の中に溶け合っていく悦びに、心底から酔いしれた。
朝露が窓を濡らす頃、エレオノーラはラインハルトの胸に顔を埋め、幸福な疲労感の中で誓った。
この男のためなら、自分は王女という地位さえも捨て、どこまでも地の果てまでついて行こうと。
それは、一人の女が、真の「王」に魂を捧げた瞬間であった。




