第2部 第11話 義星の戴冠――公爵ラインハルト
王都ヴァロアの内乱は、首謀者フェルディナンド王子の捕縛によって幕を閉じた。
数日後、王城の謁見の間には、生き残った全貴族と近衛騎士団が居並び、重厚な静寂が支配していた。
その中心を、一人の青年が歩んでいく。
赤い痣を隠すことなく、堂々たる足取りで進むラインハルトの姿に、かつて彼を「怪物」と蔑んだ貴族たちは一人として目を合わせることができなかった。彼らの隣には、ラインハルトを「主」と仰ぐラーゼンら近衛騎士たちが、誇らしげに胸を張っている。
玉座に座る国王が、深く、重々しい声を発した。
「ラインハルト・ハクザン辺境伯よ。……其方は、王都の危機に際し、神速の進軍を以て余の命と、この国の未来を救った。その功績、もはや一辺境伯の枠に収まるものではない」
国王は立ち上がり、傍らに控える娘、エレオノーラを見やった。彼女の瞳は潤み、期待と信頼を込めてラインハルトを見つめている。
「余は其方を、【ハクザン公爵】に任命する。……そして、王家との絆をより強固なものとするため、第一王女エレオノーラとの婚約を、ここに認めるものとする!」
広間にどよめきが走った。
「辺境の痣持ち」が、一気に国家最高位の公爵となり、王位継承権を持つ王女の夫となる。これは、王国の歴史を塗り替える劇的な瞬間であった。
ラインハルトは静かに跪き、頭を垂れた。
「……身に余る光栄に存じます。陛下、そして殿下。私はかつて、この顔の故に『光』を奪われたと思っておりました。しかし、この地で出会った方々の『義』が、私をここまで導いてくれました」
彼は顔を上げ、エレオノーラと視線を交わした。
公爵への昇進。それは彼にとって権力のためではない。エレオノーラを一生支え、守り抜くための「盾」を得たことを意味していた。
「エレオノーラ殿下。……共に、この国に真の安寧を築きましょう。それが私の立てる新たな『義』でございます」
エレオノーラは、溢れそうな涙を堪え、最高の微笑みで応えた。
「はい。貴方となら、どんな荒波も越えていけます……私の、愛しい公爵様」
その夜、王都ではハクザン公爵の誕生を祝う鐘の音が鳴り響いた。
しかし、ラインハルトの瞳は、祝宴の喧騒の先にある「北の空」を見つめていた。王国の内乱が終わった今、力を蓄えた帝国、そして沈黙を保つ魔族領が、この新たな「若き公爵」の誕生を注視していることを、彼は本能で察していた。




