』第2部 第9話 挟撃の戦陣――反乱軍の崩壊
「絶望している暇があるなら、私の指示に従え!」
ラインハルトの声が、崩れかけた内城の広間に響き渡った。
五十騎の精鋭と共に乗り込んだラインハルトは、混乱する近衛騎士たちを即座に再編した。
「第一隊は東門の瓦礫で盾を並べろ! 第二隊は回廊の上から魔法と矢を絶やすな! 敵の足元を掬い、一歩も中へ入れるな!」
痣のある顔から発せられる的確な命令。その武士としての威厳に圧された騎士たちは、吸い込まれるように配置に就いた。
ラインハルト自身も前線に立ち、敵の攻勢を最小限の動きで受け流す。彼が指揮を執った瞬間から、内城は「落ちかけの城」から「鉄壁の要塞」へと変貌したのだ。
「……ラインハルト様、来ましたぞ!」
シオンが空を指差した。
王都の地平線から、地鳴りのような蹄の音と共に、ハクザンの紋章を掲げた辺境伯軍・正規軍一万が姿を現した。
「馬鹿な……もう到着したというのか!?」
内城を攻めていた反乱軍の背後に、ハクザンの精鋭たちが突き刺さる。
内城からの反撃と、背後からの正規軍による挟撃。逃げ場を失った反乱軍は、瞬く間に瓦解した。
「公爵閣下、退却を! すでに包囲されております!」
反乱を主導していた公爵家の一団は、敗走の末にシオン率いる隠密部隊によって次々と捕縛された。
しかし、肝心の首謀者、フェルディナンド王子の姿がどこにもない。
「……報告します! フェルディナンド王子は、公爵家が捕まる直前に戦線を離脱。王家所有の別荘へ逃げ込みました!」
工作員からの知らせを受けたラインハルトは、冷ややかに目を細めた。
「公爵家を見捨てたか。……自分だけは無実だと、あらかじめ偽造しておいた証拠を盾に逃げ切るつもりだな」
フェルディナンドは狡猾だった。彼は別荘に籠もり、すべての罪を公爵家に擦り付けるための「清廉潔白な王子のフリ」を始めていたのだ。
「証拠がなければ、王族は裁けぬ。奴はそう高を括っている。……だが、私の『目』を甘く見すぎたな」
ラインハルトは、捕らえられた公爵たちが絶望する姿を一瞥し、次なる一手――「隠された真実(証拠)」を暴くための調略を、すでに情報局に命じていた。




