第2部 第7話 影の進軍――王都奪還の五十騎
王都ヴァロアの外郭門が、ついに反乱軍の重火器によって粉砕された。
「第2王女エレオノーラを捕らえよ! 抵抗する者は一人残らず斬り捨てろ!」
フェルディナンド王子の勝ち誇った怒号が響き、内城への最終突撃が始まろうとしていた。
その時である。
王都を見下ろす北の丘陵に、陽炎のように揺らめく影が現れた。
通常なら、軍隊がハクザンから王都まで駆け抜けるには、どれほど急いでも3日はかかる。しかし、ラインハルトは整備済みの伝馬制度を限界まで酷使し、替え馬を次々と乗り継がせることで、わずか1日でこの地に到達したのだ。
率いるのは、シオンを含む選りすぐりの精鋭、わずか「五十騎」。
「ラインハルト様、王都は風前の灯火です。正規軍の到着を待っていては、殿下の命は……」
シオンが焦燥に駆られて進言するが、ラインハルトの瞳は冷徹に戦場を俯瞰していた。
「……待つ必要はない。五十いれば、首を獲るには十分だ」
ラインハルトが右手を振り下ろすと同時に、五十の影が斜面を駆け下りた。
それは正面からの突撃ではない。工作員ゴルザがあらかじめ突き止めていた、反乱軍の布陣の「隙間」を縫うような、精密な浸透工作であった。
「……一人目」
ラインハルトの声とともに、反乱軍の左翼を指揮していた伯爵の喉元を、シオンの投げナイフが貫いた。
続いて、中央で門の破壊を指揮していた将軍が、闇から放たれたラインハルトの一矢によって眉間を射抜かれる。
「な、なんだ!? 指揮官殿が倒れたぞ!」
「どこだ、どこから狙われている!?」
反乱軍は混乱に陥った。五千の兵がいても、それを動かす「脳(指揮官)」をピンポイントで潰されれば、ただの烏合の衆に過ぎない。
ラインハルトたちは、混乱する敵陣を風のように駆け抜け、一人の兵も無駄に殺すことなく、流れるような連係で中枢部を破壊し続けた。
「……道が開いたな。行くぞ」
指揮系統が崩壊し、互いに疑心暗鬼に陥った反乱軍の隙を突き、ラインハルト率いる五十騎は、まるで最初から味方であったかのような平然とした顔で、内城の門へと滑り込んだ。
反乱軍が「背後に死神がいた」ことに気づいた時には、すでに王都の最深部、エレオノーラが籠もる広間の前には、赤い痣を持つ若き辺境伯が立っていた。




