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第1部 第2話  黒金の塔の侵入者

エドワード辺境伯の手によって「黒金の塔」に幽閉されてから、数年の月日が流れた。

外界から遮断されたその場所で、ラインハルトは一人、前世の軍略を反芻し、この世界の魔力の流れを読み解く日々を送っていた。

そんなある月明かりの夜。静寂に包まれた塔の三階、その窓の格子を外側からこじ開けようとする不気味な音が響く。

(……賊か? 忌み子が住むこの塔に、一体何用だ)

ラインハルトが闇に紛れて様子を伺っていると、ひらりと身を翻して部屋に飛び込んできた影があった。

それは、ラインハルトとさほど歳の変わらない、身軽な装束に身を包んだ人物だった。頭から深いフードを被り、顔の半分を布で覆っているため、その素顔はうかがい知れない。

「……ちっ、外れか。お宝の匂いがしたんだけどな、ここは空っぽかよ」

低くも高くもない、鈴を転がすような、それでいてどこかハスキーな声。男とも女ともつかぬ、独特の中性的な響きが部屋に溶け込む。

その人物が不満げに部屋を見渡した瞬間、ラインハルトの心臓が大きく跳ねた。

(……この気配、この眼差し……まさか、三成か?)

「誰だ、お前は。私の城に勝手に入るとは、無作法な客だな」

ラインハルトが冷徹な声で問いかけると、侵入者は驚いて跳ね上がった。月明かりがラインハルトの顔の痣を照らし出す。普通なら悲鳴を上げるはずのその痣を見ても、侵入者は怯むどころか、不敵な笑みを浮かべた。

「ひえっ!?……あ、なんだ、子供か。驚かせんなよ。あたし……いや、俺はミツナ。しがない義賊さ。あんた、こんな気味の悪い塔で何してるんだよ?」

ミツナ。

自らを「あたし」とも「俺」とも呼び、性別さえも煙に巻くその存在。

だが、その真っ直ぐで頑固そうな瞳の輝きは、かつて関ヶ原で共に戦った盟友、石田三成の魂そのものだった。

「私はラインハルト。……ミツナと言ったか。お宝を探しているなら、ここには何もないぞ。あるのは、父エドワードに捨てられた忌み子一人だけだ」

ラインハルトが自嘲気味に告げると、ミツナはまじまじと彼の顔を見つめた。

「忌み子? くだらないね。あんたのその目……死に損ないの目じゃない。あたしには分かるよ。あんた、ここで『お宝』以上の何かを隠し持ってるだろ?」

ミツナの真っ直ぐな言葉が、ラインハルトの凍てついた心をわずかに溶かす。

塔の中に差し込んだ、予測不能な一筋の光。

義星と、かつての戦友の魂を宿した中性的な義賊。二人の運命が、再び関ヶ原の時を超えて交錯し始めた。

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