表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/116

第2部 第2話  深紅の王女と、仮面の当主

王都において、ハクザンの若き当主ラインハルトの名は、一種の「都市伝説」と化していた。

「帝国軍を壊滅させた救世主」という称賛の一方で、「顔に呪いを持つ醜悪な怪物」という不気味な噂が、常に付きまとっていたからだ。

ラインハルトが社交界に一切姿を見せず、王都での公務や中央政府との交渉を、隠居した父エドワードにすべて丸投げしていることも、その噂に拍車をかけた。

父エドワードにとって、自分を隠居へ追い込んだ「忌み子」の顔など、二度と見たくもない。彼は王都の別邸で、ラインハルトから送られる潤沢な資金で贅沢に暮らしながら、中央政府には「息子は病弱で、顔を見せられる状態ではない」と虚偽の報告を続けていた。

この親子間の「断絶」こそが、ハクザンの真の発展を隠す絶好の霧となっていたのである。

だが、その霧を強引に晴らそうとする者が現れた。

第一王女、エレオノーラ・ド・ヴァロア。

王家の中でも随一の聡明さと行動力を持つ彼女は、急速に要塞化し、独自の経済圏を築きつつあるハクザンを「王国の脅威」と見なし、自ら視察に乗り出したのだ。

「病弱? 醜悪な怪物? ……自分の目で確かめるまでは、何も信じないわ」

豪華な馬車が、ハクザンの巨大な外郭門を潜る。

エレオノーラは窓の外を見て息を呑んだ。そこには、王都をも凌ぐほど整然と区画整理された街並みと、活気にあふれる民衆、そして見たこともないほど強固な石積みの要塞群が広がっていた。

「……これが、辺境だと? 下手な直轄領よりも豊かではないか」

ついに、辺境伯邸の広間で、エレオノーラはラインハルトと対面する。

彼女の前に座る青年は、高価な衣装に身を包むこともなく、実戦的な軍装のまま静かに座していた。

「辺境伯領へようこそ、エレオノーラ王女殿下」

その声は、噂に聞く「怪物」のそれではなく、深く、落ち着いた知性を感じさせるものだった。

ラインハルトがゆっくりと顔を上げ、フードを外す。

「……っ!?」

エレオノーラは、思わず椅子から立ち上がりそうになった。

その顔の右半分を覆う、鮮血のような赤い痣。

しかし、彼女が驚いたのは、その痣の醜さではなかった。

痣を隠そうともせず、むしろそれを自らの血肉として受け入れている青年の、射貫くような瞳の鋭さと、そこから溢れ出す圧倒的な「王の覇気」に、恐怖すら覚えたのだ。

(これが……父上が『気持ち悪い』と切り捨てた男なの? まるで、百戦錬磨の老将が若者の皮を被っているような……)

「私の顔に、何か不都合でも?」

ラインハルトの冷淡な問いに、エレオノーラは初めて「手強い相手」と対峙していることを悟った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ