第1部 第13話 義星、戦場に立つ――ハクザン防衛戦の結末
放てッ!!」
ラインハルトの鋭い号令とともに、ハクザンの空を覆い尽くさんばかりの『ファイアボール』が撃ち出された。
三段撃ちによる絶え間ない火力の雨。三重の馬防柵に激突した帝国の精鋭騎士団は、その「魔法の壁」を一枚も突破できぬまま、爆炎の渦に飲み込まれていった。
「バ、馬鹿な……! 我が帝国の誇る騎士団が、これほど一方的に……!」
猛将バルカスは、燃え盛る戦場を前に呆然と立ち尽くしていた。
兵たちが次々と倒れ、退却のラッパが響き渡る中、ラインハルトは指揮台を下り、一歩、また一歩と、死地となった前線へと歩みを進めた。
「坊ちゃま、これ以上は危険です!」
シオンが必死に制止するが、ラインハルトはその手を静かに、しかし強く拒んだ。
「シオン、見ておけ。これが『戦』だ。策を弄し、人を殺めるということが、どれほどの重みを持つか。……私はそれを、後ろで隠れて見ているつもりはない」
ラインハルトが戦場の最前線、まだ熱気の残る柵の前に立った時、敗走する帝国兵の一人が、最後の力を振り絞って剣を向けた。
「悪魔め……! 忌み子の化け物め!!」
ラインハルトは逃げなかった。あえて顔の痣を晒し、その男の瞳を真っ直ぐに見据えた。
その瞳に宿っていたのは、憎しみではない。底知れぬ「覚悟」だった。
「そうだ。私は悪魔と呼ばれようと構わない。……だがな、私は自分の欲のために戦っているのではない。私の後ろにいる者たちが、今日という日を無事に終え、温かい食事を摂る。その当たり前の日常を守るために、私はこの手を血に染めたのだ」
彼が戦場に立つ真の理由。
それは、かつての大谷吉継がそうであったように、「守るべき者のために、すべての呪いと怨嗟を独りで引き受ける」ためだった。
ミツナが死ぬ間際に願った「生きて」という言葉。それを実現するには、この地を平和にする必要がある。そのための「返り血」を、彼は誰にも譲るつもりはなかった。
少年が放つ圧倒的な「王の器」と「武将の気迫」に、剣を向けた兵士は戦意を喪失し、その場に泣き崩れた。
三千の帝国軍は潰走。ハクザンの都は、傷一つ負うことなく守り抜かれた。
硝煙の立ち込める戦場に、ぽつんと立つ13歳の小さな背中。
しかし、その姿は、生き残った騎士たちの目には、誰よりも巨大な「真の当主」として映っていた。
「……終わったな、ミツナ」
ラインハルトは空を仰いだ。




